ハヤト君は大人っぽいねぇと言いながら、私より2つ下のハヤト君の綺麗な頭をよしよしと撫でたのは今となっては昔の話のようだった。


今となっては、私は只の一トレーナーで、ハヤト君はトレーナーを迎え撃つジムリーダーなのだ。
全く、どっちが子供だか分からない。

ハヤト君は、私が昔ホウエンからジョウトに引っ越した時、初めてできた友人だった。
ジョウトに降り立った時、長旅はやっぱり疲れるな。と思いながら体を伸ばすと、呆然とこちらを見るハヤト君に気がついたのである。

「こんにちは、私なまえです。よろしくね」
「なまえさんですね、俺はハヤトといいます。どうぞよろしくお願いします」

握手をした。
挨拶からして、私には子供らしさがにじみ出ていたし、ハヤト君からは礼儀正しさがにじみ出ていたように記憶している。

ハヤト君とはそれからよく話した。
いつかお父さんのジムを継ぐと言った目はキラキラとしていて、ハヤト君が滅多に見せない年相応の顔だった。
私はそれを微笑ましく見ていた。
ハヤト君はなんだかんだで、私にとって弟のような存在だったから。

しかし、ある日を境にハヤト君はジムを継ぐ為の特訓であまり話せなくなった。
ポケモンを持たない私にはそれが退屈で嫌だった。
どうしようもなく、ハヤト君のポケモンに子供らしく嫉妬してたのだ。

あれ、本当に私はハヤト君より年上だったのか。涙が出てくる。

そんな間に、またホウエン地方に戻り、ハヤト君とは疎遠になってしまった。
ポケギアの番号も知らなかったのだから当然だ。


ホウエンに帰り、今度はシンオウに行き、ああ、一時期イッシュにも行ったか。…そして久々にジョウトに帰り、両親から引っ越しも落ち着いた(つまりはしばらくは引っ越しは無いという事らしい。)旅に出ても良いといわれたのである。
ジョウトを旅するから、当然初めてのジムはハヤト君となる。
私は、親に貰ったレベル5のミニリュウを頑張って育成し、ハヤト君のジムに臨んだ。





「……、…久しぶりですね」
「久しぶりの再開がバトルなんて、素敵だと思わない?ハヤト君」
「あなたは相変わらずですね…」

はあ…と息を吐いたハヤト君。
どういうこと…。

「台詞がいちいち子供っぽいです」
「んなっ、なんでっ!」
「無理して格好いい台詞を選ぶ辺りが、ですよ」
「ハヤト君が大人過ぎるのよ!」
「自分は年相応ですよ」
「嘘だー!」


それにしてもハヤト君、確かに大人っぽくなった。
服も和装で…格好いい。


「あえて変わった所をあげるなら…そうですね、外見だけ少し大人になりました」
「ほめてないでしょ、それ!」
「ほめてますよ。本当、あの頃から変わってなかったらどうしようかと…」
「ハヤト君絶対、私を年上だって思ってないでしょう!」
「思ってますよ、だから敬語なんでしょう」
「そりゃそうだけど…」
「…どうしても年の差は埋まりません。ですから、俺はトレーナーとして貴女の上を行きます」


バッ、とハヤト君が構えた。
…バトル開始だ。


「ジムトレーナーを破るため、ここまで来た事を証明して下さいね」









「うっ、うぅ〜!」
「え、弱…」
「それ以上は言っちゃ駄目!」
「俺は怒ってるんですよ」
「…え」
「帰って来たら真っ先に俺の所に来ると思ったらさぁ」
「ハ、ハヤト君…?」
「何?感動的な再会?そんなものの為に俺の所に来るの後回しにしてたわけ」
「え?え?」
「それにそーゆー事仕組んでるんならさぁ、リーグ本部規定レベルのポケモンには勝ってみせなよ。俺の本当のの手持ちポケモンはレベル50以上だから」
「え?え?え?」


誰コレ、ハヤト君?え?え?



「ハヤト君どうしちゃったの?いつもと……、ひゃっ」



壁に押し付けられた。
もう何が何だか分からない。


「大体、俺は貴女が黙って引っ越した事も怒っていたんだ」
「そっ、それは!ハヤト君がジムリの為の特訓でなかなか話せなくなったから…!」
「は?それはある意味仕方ない事だろう?俺だって貴女と話したかったさ。でもあの時早くジムリになる事を求められていた…。…貴女は言いに来るくらいできた筈だ。そうすればポケギアの番号だって渡せて、時間が空いた時いくらでも話せただろう」
「…っ!」



わかってる。
ハヤト君の言う事は合ってる。
でも。



「私だって…ハヤト君と話せなくなって寂しかったからぁ…っ…だから、ハヤト君も寂しがって欲しかったの…っ、だから…!」


くだらない、子供じみた理由だった。
分かってる。
結局寂しかったのは私だったから。



「俺、なまえの事…ずっと好きだった」
「え?」
「鳥ポケモンから降りてきたなまえがずっと好きだった。さっきのはごめん、ただの八つ当たりだ」


ハヤト君は俯いた。
というか、え、いまなんて。


「えええぇぇー!?」
「そんなに驚く?」
「驚くよ!ハヤト君!だって…」



ハヤト君はずっと弟のように。



「ふうん…」
「お…お…!?近いよハヤト君!」
「ねぇ、今僕は弟に見える?」


ちちちち近近…っ!


「…み」
「…み?」
「見えるわけないでしょーーー!?」


スパーン!


「ハヤト君のばーかばーか!ハヤト君のジムなんて後回しにしてあとでけちょんけちょんにしてやるんだからーっ!」


そう叫んでダッシュでジムを出た。

ああもう、心臓は痛いし顔は熱いしハヤト君のばかばかばか!




「見えるわけない…か」

クスクスと笑いがこぼれる。

うん、悪くない。



ーーーーーーーーーーー

(なんかすごい勢いでバッジ手に入れてるトレーナーが居るんだけど…)
(へえ…楽しみだな…)
(あれ、ハヤトの所まだ来てないのかい?)
(ええ)


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