※死ネタも含みます!





私が神様に貰ったのは、一つのボタンだった。





「おめでとう、レッド」
「…うん」
にこりと笑って私の幼なじみであるレッドを迎えた。
「グリーンもおめでとう」
「レッドに負けちまったけどな」
「ううん、2人ともすごいよ!だって、私、一番強い人と二番目に強い人と幼なじみなんて。どこ行っても自慢できちゃう。本当に…2人共すごいわ」


私と違ってね。


…このやりとりは一体何度目かしら。
何十回、いや何百回。何十年も何百年も、私はこのやりとりを続けてきた。

私も彼らも歳をとらない。
だって、リセットしてるんだもの。
神様から私が貰ったボタンは“人生リセットボタン”だ。
悪いのは私じゃないの。悪いのは、彼にあんな結末を迎えさせる世界の方よ。

またレッドが頂点になってしまった。
行き着くエンディングはー…。







「レッドが死んだ」

グリーンの言葉に私は表情を変えた。
やっぱり、何百回繰り返そうと慣れそうにないな。

「シロガネやまで遺体が発見されたんだ。…あいつ馬鹿だ。そんな所にずっといたら、いくらなんでも体がもつわけないのに…っ」

本当に、馬鹿なんだよ。最初のレッドも十回目のレッドも、百回目のレッドも…何回繰り返してもレッドは馬鹿なんだから。…もちろん、何回繰り返しても…グリーン、あなたも馬鹿なの。





「俺はもう…トレーナーをやめるよ」


…あなたも、やっぱりまたそうなるのね。
あんなに好きだったポケモンバトルを…何十回も何百回も捨てるのね。
誰も幸せじゃないこんな世界なんて。


「グリーン…」
「…なんだ」
「この世界のレッドもグリーンも愛してる。でも駄目なの、ごめんね、私はまた…2人を幸せにできなかった」
「…え?」
「ばいばい」
「……なまえ」
「人生リセットボタン」


私がそう口にした瞬間、ぐわんと世界が反転した。
愛してる。何度繰り返しても。
すべては2人を幸せにするために。


目を開くと青空が広がった。
目の前には、彼らがいた。
繰り返した時はいつも、2人が旅立つ頃。

「…じゃあ、いってくる」
「待ってろよ、なまえ!オレがチャンピオンになって帰ってくるから!」
「グリーン…うるさい…」
「んだとー!」

何百回も聞いたやりとりを聞いた。

「…いかないで」


あんな結末なら、もう。


「何いってんだよ、寂しいのか?」
「…そうだよ」
「…大丈夫」
「そうそう!最後は必ず、此処に帰ってくるから!」


嘘だ。2人とも遠くに行くじゃない。


私を置いて、頂点に上り詰めた2人は、もう二度と笑顔をくれないじゃない。
ああ、私が2人より年下じゃなければ。
もっと才能があれば。
バトルがつよければ。
…2人を幸せにできたのかな。



いくら考えても仕方がないと考えるのを止めた。

「いってらっしゃい、2人とも」


そうしてまた、2人は頂点になった。
いつもと同じ、レッドが一番でグリーンが二番。
実を言うと、グリーンが一番になった事だってあった。でもレッドはその後何度もグリーンに向かっていって、勝った後は結構シロガネやまにこもってしまった。
どうやらレッドにとってグリーンは一番本気を出せる唯一のライバルだったのかもしれない。
グリーンに勝って一番になったら、もう誰とバトルしたらいいか分からないんだ。
…私も強くなろうとした事はあった。
でもどうしても2人にはかなわない。
なら私はどうすればいいのだろう。
私はどうすれば2人を幸せにできるのだろう。
分からない。
かといって今更やめるなんて真似、できる筈がない。
止めたら私が何百回も繰り返した意味が…。
それは嫌だ。
絶対に嫌だ。
何百回も繰り返したのよ。
私はもうー…。

ふと前を見ると、男の子がきょとんとした目で私を見ていた。
前髪がチャームポイントなその少年は、確か何回か(ここでいう何回かは繰り返した中の何回か)このマサラで見かけた気がする。
マサラの誰かの親戚かしら。

「お姉さん、頭抱えてどうしたの?」
「あ…私は…」

なんて言ったらいいかしら。
そう目を伏せていると…。

「俺に出来る事ならなんでもしますよ」

そんな優しい事を言うものだから。


「あのね、シロガネやまにね、すっごく強い男の子がいるの。赤い服を着てる…。…お願い、レッドを倒して…っ!」
泣くように叫ぶと、男の子が目をぱちぱちと何度かまばたきした後、にこっと笑って私の頭に手を置いた。

「いいですよ」
「…ぇ」
「だからおねーさんは、安心してここに居て下さい」

倒したらまた来ます!と手をふった少年。
こんなまだ10歳前後の少年にレッドが倒せる筈がない。
なのにすがるなんて私はなんて馬鹿だろう。
シロガネやまに入るだけでも危険だというのに。むしろ入る為にバッチを集めるのだって、何年かかるか…。
無謀だ。そんなの分かってる。
でも…なんでもいいから縋りたかったのよ。








今日はシチューだった。
温かいシチューは幾分私をほっとさせてくれた。
もうすぐレッドが死ぬ。
今回はレッドが一番だったから、その分命日は早まる。
何ヶ月かは前後するけど大体は同じくらいだから。
…もうすぐ、また、繰り返すんだ。



コンコン。



そんな音が玄関から聞こえた。
…誰かしら。


コンコン。


「今出ますー!」


ガチャリとドアを開くと、そこに居たのは前髪がチャームポイントなあの少年だった。


「君…あの時の…」
「僕はヒビキっていいます!」
「あ、うん…ヒビキ君…ね…」
「おねーさん久しぶり。約束を守ってきましたよ!」
「…約束?」


なんだったっけ。確か…、…レッドをー…。


「レッドさんに勝ってきました」



ドクン、と心臓がなった。


「う、そ…」
「あー、疑ってるんですか?本当ですよ、俺結構強いんですからねっ!」


だって、レッドに勝つなんて…結構強いなんてどころじゃ。


「だから、証人を連れてきました」
「…え?」
「ほら、レッドさん!」


ぐいっとヒビキ君が引っ張ってきたのは。


「……っ、れっど」







一回目の時、レッドが動かない状態で帰ってきた。
前にあったよりずっと背が伸びたレッドは、綺麗な顔で寝ていた。
…寝ている、みたいだった。
でも、私をうつすあの綺麗な瞳は閉じたままで、あの温かい手は冷たくなっていた。

そして二度と、笑ってくれなかった。

グリーンは、トレーナーを止めると言った。
グリーンは気を使った笑顔とか苦笑いとかしかしなくなった。
大好きだったあの勝ち気な笑顔は二度と見れなくなった。

…涙は出なかった。
悲しいではなく絶望だった。




また、2人の笑顔が見たい。見たい。見たい。見たい。見たい。見たい。見たい。見たい。見たい。見たい。そのためなら何だってーっ!

そんな時、神様とやらに人生リセットボタンを貰った。
「でもいいのかい、これは呪いだ。君が満足する未来がこなければ消えない呪い。何百回何千回と繰り返しても君が満足する未来が来ないかもしれない。君が狂おうがなんだろうが終わらない呪い。それを背負う程その2人に価値はあるかい?」「私は2人の笑顔が大好きで、2人は私の世界のすべてだから」

2回目に来た時は嬉しかった。また2人の笑顔が見れたから。
3回目に来た時は安堵した。また戻れるから。2人の笑顔が見れるから。
4回目は疑問を感じた。いつ未来は変わるのかと。
5回目は苦しくなった。どうしても未来が変わらないから。

そのあと何度も繰り返すうち、呪いの意味を知った。制限が無いということは、優しさではなく酷さだと知った。
…報われない。
それでも抜け出せなかった。






「…なまえ、俺…」

ちゃんと動くレッドがそこにいた。

「…レッドぉ…っ!」

目から涙がどんどんとこぼれ落ちた。
次々と頬を伝って地面を濡らした。
気づいてしまった。
幸せにしたかったのは、幸せになりたかったのは、私だった。


「レッド、レッド、れっ…ど…っ」


ぎゅう、と抱きついた。
レッドは私の背中をぽん、ぽんと叩いてくれた。


「あー!何だよレッド帰ってきてたのかよ」
「あ、グリーン」
「あじゃねーよ。お前どこ行ってた!?」
「…内緒」
「…はぁ!?」
「シロガネやまですよー、グリーンさん」
「ヒビキ!?…って、シロガネやまああぁぁ!?どうりで見つからないわけだ、馬鹿野郎!」
「グリーン、うるさい」


久しぶりの2人の言い争いに涙が止まらない。
…2人共、笑ってる。


「…なまえ」
「れっど…?」
「…俺一番じゃなくなっちゃった」
「…うん」
「でもなまえは俺達が好き?笑ってくれる?」


2人がいるならいくらでも私は。


「…2人だから、大好きなんだよ…っ!2人が笑顔じゃないとっ…私笑えないもんっ…」
「なまえは俺達が居ないと駄目なんだね」
「お前は本当に俺達じゃないと駄目だな」


当たり前じゃないか。


「そうだよっ…!だから…、もう…離れちゃやだ…」


「安心して」
「前にも言っただろ、帰ってくるのは此処だ」
「あ、おねーさん、俺もいますよ!」


夢にまでみた未来。
何百回も繰り返してやっとたどり着いた。






私の笑顔をスイッチに、人生リセットボタンが私の中から消えた。



ーーーーーーーーー

人生リセットボタンっていうボカロ曲を確か前に聞いたのでそれイメージで…。
かっこいい歌です。
多分こんな内容ではなかった気がします。
最初はバッドエンドの予定でした…。
人生リセットボタンが消えたら、今までの分ヒロインが一気に歳をとって消えてしまうけれど、ヒロインはそれでも幸せだったという…。
でも後味悪すぎなので止めました。


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