「うん、僕の負けだ。僕に勝った証としてこのベーシックバッジを…」
「いらない!」

私は目の前に立っているジムリーダーの発する声をかき消すように、声を荒げた。

「…どうして?」
「どうしてって…っ!」

私はぐ、と一度言葉を飲み込んだ。
だめだ、こんな言い方。
…あなたが弱いから、なんて。

「…僕が、弱いから?」
「えぇっ」

私が考えていた事と同じ言葉をかけられ、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

「君は本当にわかりやすいよね」
「……だって、あなたが本気を出さないから」
「そうかな、僕は出せるだけの力は出したつもりだけど」
「そのポケモンで!?あんなに強かったあなたが、そんなレベルのポケモンを使って本気出したっていうの!?ふざけないでよ!」

私が声を荒げると、彼は困ったように笑った。





私がポケモンリーグに挑戦しようと、チャンピオンロードを歩いていた時だ。
そろそろ着く、なんて時にこの人は居た。
まあいいかと、リーグに挑戦する前だしレベル上げくらいにはなるかなというような軽い気持ちで戦いを挑んだ。
「バトルしませんか?」
「…まぁ、今日はあいつ来ないだろうし…いいよ、やろう」

余裕ぶっちゃって。
どうせ私に負けるのにさぁ。

「よし、いけ!ゼブライカ!」





「…え?」
しばらくすると、私の手持ちは全滅していた。

「…うそ」
嘘だ。
なんで?
私、今まで殆ど負けなしだったんだよ?
なのに、こんなあっさり。


「君も強かったよ、楽しいバトルだった。ありがとう」
そう握手を求められても、私は呆けたまんまだった。

「…。とりあえずポケモンセンターまで送るよ」
「……いい、自分で帰る」

やっと口に出した言葉を聞いて、そいつは少しだけ、ふぅ…と息を吐いた。

「負けず嫌いなのは分かるけど、君の手持ちを早く治療しなくちゃいけないのは分かるよね?ましてや此処はチャンピオンロードだ。人間だけで出歩くのはあまりに危険だよ」
「………」

わかる。
それは分かっている。
下唇を噛む仕草は、言い返す言葉が無いという「肯定」の意味だ。
それは彼も分かっているのだろう。

「とりあえず、外に出たらそらをとぶでポケモンセンターに送るから」
「…でも、ポケモンリーグってすぐそこよね?一番手っ取り早いんじゃ…」
「ポケモンリーグは、勝つ気で土を踏むべきだ。大丈夫だよ、僕のポケモンのそらをとぶは速いから、あまり変わらない」
「……そう」

さっきと言っている事が矛盾しているようにも感じた。
彼のポケモンがどんなに速くても、どう考えてもリーグの方が早い。
それでも、このまま憧れのポケモンリーグに初めて足を踏み入れたならば、最初からそこは私にとって敗北の場所となってしまう。
彼は私の事も考えたうえで、最良の判断をしたのだろう。



「…なんであんなとこにいたの」
「え?」

ポケモンセンターで回復が終わるのを待っている間、ちゃっかり彼も付き添っていた。
だから聞いた。彼の実力は明らかに、他のチャンピオンロードにいるトレーナーから逸脱している。


「あなたならポケモンリーグに挑戦できる力があるのに」
「したよ、挑戦」
「えっ」
「四天王には勝ったよ。でも、色々あってね、未だにチャンピオンとはバトルしていない」
「なんで…?」
「チャンピオンもすごい人だし、尊敬はしている。けれど、今はもっとバトルしたい相手が居るんだ。だからあの場所で鍛えながら、そいつを待ってる」
「………ねぇ」
「ん?」
「また、バトルしに行っていい?」
「…。うん、いいよ」
「絶対、絶対…いつかあんたに勝つから!」

私にとっての、今バトルしたい人ー…。






私は認めない。
こんなで勝ったなんて思いたくもない。
だって私にとって、あなたは誰よりも強いんだ。
私の中の最強なんだ。
その人が、こんなバトルをするのを見るのが、たまらなく苦痛なのよ。


「…もう一度、あの時のように戦って」
「…、仕方ない…な」

にこ、と笑って彼は口を開いた。

「場所はあの場所で。僕も本来の手持ちで挑むよ。これでいいかな?」
「いいわ」
「ただし一つだけ条件。僕に勝っても負けても、ベーシックバッジを受け取る事」
「…!?嫌、勝ったらいいけど、負けたのにもらうだなんて嫌!」
「じゃないと、僕はこのバトルを受けない。バッジを利用する利用しないはトレーナーの自由だけど、ジム戦に勝ってバッジの受け取りを拒否されるのは多少問題があるんだ」
「……っ」

言い分は分かる。でも、でも、だけど…!

「…分かった。…勝てばいい話だもの。それでいい」
「うん、ありがとう」


このままよりは、その方がずっとマシだわ。








あの場所とは当然ながらチャンピオンロードの、ポケモンリーグ手前まで行った場所。
私達が、いつもバトルをしていた場所。


「使用ポケモンは6体。入れ替わり自由、道具の使用も自由。さぁ、はじめようか」


私は唾を飲み込んで、モンスターボールに手をかけた。





「…ありがとう、お疲れさま」


私は6体目のポケモンをボールにしまった。
結果は、私の負けだった。


「今までで一番、いいバトルだったよ」
「……」
「バッジ、貰ってくれるよね」
「…約束だから」


私がそう言うと、彼はふっと目を細めて微笑んだ。


「バッジはさ、ジムで勝利出来る実力が最低条件だけど…」
「……」
「結局、僕が君にあげたいんだよ」
「…そんなの」
「だって君は、僕がジムリーダーになる前から、認めていたトレーナーだから」


何よ、何よ。


「上から目線」
「あ、ごめん」
「いいわ」

彼の手から奪ったバッジを、バッジケースではなく胸につける。



「いつか…ジムリーダーじゃなくて、ポケモントレーナーのあなたを倒すから」
「うん、待ってるよ」



(あいつに何度挑戦しても勝てなかった、それでもあいつとバトルをしたくて仕方が無かったあの頃。

いつもいつも、バトルの度に新しい世界をみせてくれたあいつのように、僕も彼女に新しい世界を、何かをみせる事が出来たなら。


それは、とても幸せだと思う)



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BWのチェレンが大分あやふやなのですが。
チェレンの目指すトレーナーが、トウヤ君のようなトレーナーで、ジムリーダーとしてはアデクさんのような人を目指してたらウレシイデス。


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