私は赤という色が嫌いだ。
「ねぇ、赤は好きかい?」
そう言う彼に私は虚ろな視線を向けた。
「…きら、い」
私は彼を知らなかった。けれど。
「君は彼も嫌いだよね?」
だって彼は、君の嫌いな赤に塗れているじゃないか。そう言う彼は私を知っているようだった。
「…好き、だったわよ」
そう口にした。
好きだった、確かに愛していた。
けれど今は?この、私の傍らに転がっている血まみれで直視さえ出来ないこの人を、私は愛している?
「そうかい。じゃあかわりにボクはどう?」
そうにやにやと笑って言う彼に私は口をあけた。
「あなたとなんて、死んでも嫌だわ」
*
まただ。
「ねぇ、私の事…好き?」
「好きだよ、愛してる」
「…そう」
その瞬間、彼は血まみれになり、あの時のように実にグロテスクな肉の塊となった。
あれから何度も同じ事を繰り返している。
あの時と違うのは、私がそれでもそれを直視できるという事。
何度も同じ目に合ったせいで、随分と慣れてしまった。
「私も愛していたよ」
でもごめんね。
死体を愛する趣味は無いの。
だから最初に聞いたでしょ?あなた、強いのって。
…強いって言ったわよね?
でもあいつにあっさり殺されちゃうのね。
「まだ続けるの?」
「……」
「いい加減、ボクにしたら?」
「あなたとなんて、誰を殺してもやぁよ」
そうクスクスと笑う私の笑顔は、目の前の殺人鬼に酷く似ていた。
「ねぇ、赤は好きかい?」
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