「あ、あのさ…ちょっと…いいかな?」


私らしくないもじもじした仕草を出す。
流石にこれには恭弥君も感ずくのではないだろうか。
そんな淡い期待と抱いていた私が馬鹿だった。


「えっと、忙しかったらごめん…」
「忙しい」
「……」


よし、殴ろう。今決めた。


「恭弥君、歯ァ食いしばろうか」
「君程度の攻撃普通に受けられる」
「ひどい!というか可愛い幼なじみのお願いくらい聞いてよ!」
「可愛い…?ハッ」


鼻で笑われた。畜生。

「いいじゃんよー。話そうよー」

そうぐでぐでと恭弥君にもたれかかると、恭弥君はうざったいような目で私を見た。ひどい!

「酷いのはなまえだろう。僕はこの書類を片付けないといけないんだ。邪魔しないでくれる」

机の上にビルのように聳え立つそれが恨めしい。

「そんなのあとででもいいじゃん」
「駄目」
「私と書類どっちが大事なのさ!」
「書類」
「…」
「…」
「恭弥君じゃんけんしょう」
「…」
「恭弥君が勝ったら書類手伝うからさ」


はあ、とため息をついて私に向く恭弥君。
なんだかんだで恭弥君私に甘いよね。


「わあい!じゃーんけーん…」









「恭弥君ー、書類あと何枚ー?」
「300枚位だよ」
「うげー」
「しゃべってないでさっさとやってくれる」
「はーい」



負けた。
負けました。
そりゃもう見事に。
というか私恭弥君にじゃんけんで勝った事無いのになぜ持ちかけたし。
とりあえず恭弥君がチェックした書類に判を押すのが私の仕事である。


「…よし、休憩しよう恭弥君!」
「…随分と早いね」
「いいじゃん!書類100枚くらいはやったじゃん!」
「たかが100枚…」
「ホラホラ何飲む!?」
「じゃあ珈琲「はい、ミネラルウォーター!」
「……」


ドォン!と勢い良く水を置くと、恭弥君がため息をついた。


「…まだ珈琲入れられないの」
「ホラ、珈琲メーカーハイテクだから」
「機械オンチだね。…いいよ、自分で入れる。なまえは書類の続きしてて」
「…!や、やる、私やる」
「…は、別に「やるったらやるのー!」

そう言って珈琲メーカーのタンクにミネラルウォーターを入れる。
あとは豆をセットして…。


ドカーン!


「…恭弥君、珈琲メーカーが爆発した」
「機械オンチとかいう騒ぎじゃないね」
「寿命だと思う」
「まだ保証期間だけど(つまり寿命とか有り得ない)」
「じゃあ良かったわ」
「…会社に申し出たら、単になまえのせいで爆発したのに、問題になって回収騒ぎになって酷い風評が流れて会社の景気が落ちて株価が暴落して多くの社員が職を失って苦しむんだよ」
「弁償します」
「当たり前だよ」
「因みにおいくら…」
「2万5千円」
「にっ…!」


なっないわ!
せめて3000円くらいだと…っ!
確かに恭弥君の珈琲メーカーは水蒸気でフワッフワのカプチーノも入れられるような感じで(恭弥君はブラックばっか飲むけど!)普通の珈琲メーカーより機能はいいけどでも!


「いやいやおかしいでしょう」
「おかしくないよ。技術相応の値段って事でしょ」
「ないないない」
「…別に君が本当に弁償できるなんて思ってないからいいよ」
「え、あ…」
「ほら、書類続きして」
「う、うん…」


どうしよう。すごい申し訳なくなってきた。
もしかして呆れたとか…。


ぐるぐるとそんな考えが頭をめぐって、目が回りそうになる。
一旦そう考えるとひたすらネガティブ思考になる。
ううう…。


そう考えていても、私は判子を押すだけだから仕事はすすむ。




*




「お疲れ様、これで終わりだよ」
「えっあ、」

ふと我にかえると書類が終わっていた。
あれからずっと一心不乱に判子を押していたようだ。


「ほら、もう遅いし送るから準備して」
「…恭弥君…。」
「何」
「あの、珈琲メーカー来年のお年玉で絶対弁償するから」
「だからもういいよ」



もういいよ。
優しい恭弥君のことだからそういう意味じゃないって分かっていても。




「う゛ぅ゛ぅぅ〜っ!」
「なまえ…!?」
「だって恭弥君絶対呆れた…っ!」
「呆れてないよ。機械オンチだって昔から知っていたのに止めなかった僕も僕だ」
「わだしっ…、きょおや君に迷惑、かけたかったわげじゃっ…!」


どうしよう、本当に涙が止まらない。
困らせる。また呆れられちゃうっ…!


ぽん。私の頭にぬくもりが広がった。恭弥君の…手のあったかさ。



「なまえ、ほら落ち着いて」
「う゛…っぐ…」
「大丈夫だから」
「ん゛っ…」
「…落ち着いた?」
「う゛ん…っ」
「そう」


わしゃわしゃと私の頭を撫で回した恭弥君。恭弥君は私を落ち着かせる術を知っている。


「恭弥君…私、居ない方がいいとか思わない…?」
「そんなこと思うわけないでしょ」
「…っ!」





ああ、私…本当に恭弥君の事ー…。





「好きだなぁ…」
「何が?」
「…っ!」



うわああぁぁ!おおもわず!
…でも、これはチャンス、だったり…!



「きっ、恭弥君!」
「何」
「す、」
「す?」
「すき焼きご飯」
「…食べたいの?」
「違うの…っ!す、す…すすすす…っすー…やっぱごめん忘れて…」
「…ほら、行くよ」




…でも、今言わなかったらもう言えない気がする…っ!
「待って!」


私は恭弥君の袖を掴む。



「す、すすすす、すす………」



頑張れ、私ー…。



「恭弥君が、…す、すき、だいすきっ…!」


少し涙目になってそう叫んだ私は、気がつくと恭弥君に抱きしめられていた。







「知ってる」



そうして恭弥君の顔が近くなって、本当に言えて幸せだと目をとじた。



すすすす、すき、だあいすき





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アオちゃんに捧げです!
ボカロのすすすす、すき、だあいすきをイメージして書いたのですが、雅が書くとなぜギャグになるのでしょう。
気がつくとキャラが勝手に動いてました。
でもとても楽しかったです!

アオちゃん、本当にこんな良曲のイメージ壊すような内容でごめんなさい…!
良かったらうけとってやって下さいね…!


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