私がいきなり消えた?
そりゃあそうだ、私はこの世界から消えていて、あちらの世界に居たんだもの。
それは間違いではない。
でも、だからといって。
「どこに、行ってたのよ…」
この友人の発言を、簡単に受け入れられるわけではない。
何故、何故茅琉だけが。
他の人は、全く気づかぬ素振りをしていたのに。
「…えっと、茅琉。私は…どんな風に消えたの?」
「えぇっ、あ…消えた…時は…」
茅琉は軽くパニックを起こしているようだった。
けれど、声は控えめだ。公共機関だから、ある程度自制が働いているのだろう。
「…カチって、音がしたと思ったの」
呼吸を整えて、なるべく気持ちを落ち着かせて、思い出しながら茅琉は語り出した。
「たまにドラマとかにある…秒針の音を大きくしたような、そんな音だったと思う。だから、ドラマじゃあるまいし秒針の音がそんなに大きいなんてとか思ってなまえの方を向いたんだけど…そしたら、居なくて。でもね、不思議なの。電車に立っている人は沢山居るのに、なまえが消えて誰も居なくなった席に、誰も座らないの。正面に立っている人も、目の前で人がポッと消えたっていうのに全然気にしてなかった」
「………」
「だから、私がおかしいんだと思った」
茅琉はスカートの裾をぎゅっと握った。
「…おかしくないよ、茅琉。茅琉は、おかしくない」
私は首を振った。
「あのね、茅琉…私ー…」
私は確かに、ここに居なかったよ。
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