カチ、カチ、カチ。
耳をすまさなければ聞こえない程の小さな音は、それでも着実に時を刻んでいた。
電車の音に掻き消されるその音に、私は耳を傾けている。
手首につけている時計を耳元に当てると、秒針を動かす控えめな音が、私の耳に入ってきた。
只今、5時29分。
あと、一分だ。
あと一分で…。
『ー…まもなくヨークシンに到着をいたします。8番線の到着です。お出口は右側です。お降りのお客様はー…』
30分間だけ、私はトリップする。
30分で私は自分の世界に戻り、きちんと時間通りに最寄り駅に着くから特に文句は無いのだけど。
(あ、今日は居る)
たまにだけど、見かけるキャラクターの存在。
キャラはよく変わるし、毎日じゃない。
まるで空をあおぐように少し顔を上げ、通学用のリュックサックにもたれながら、ぼぉっとしている。
目は開いているけど、別にどこかを見ているわけではない。
それでもどこをと聞かれたならば、窓の向こうの空ってとこかな。
そんな風を偽って、私はキャラクターを見つめている。
仮にバレていても、キャラクターは基本的に可愛いとかかっこいいとかだから、そういうの大好きなミーハー女子に見えるだろう。
(…うん)
間違いない。
あれは、シャルナークだ。
この現象はここ1ヶ月前からだし、キャラと乗り合わせるといってもマイナーキャラが殆ど。
そういった場合は見つめづらいことこのうえない。
キチンとしたメインキャラクターなんて会ったの一度だけだし。
しかも、メインどころかゴンとキルアという主人公ペアである。
声も見た目も一致という摩訶不思議な現象に、私はこのトリップの存在を確信したのだから。
(今日はラッキー、だ)
だからこそ、この時間が名残惜しい。
「ごー、よん、さん、にー、いち」
小さな声でぽそりとカウントダウンを刻めば、いつもの景色、普通の日常に戻っていた。
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