朝目が覚めると、シャルナークさんが隣に居た。
昨日提案したのは私で、朝同じ光景が広がるのは至極当然の事であるのだけれど。
というかシャルナークさんじゃなくてシャルか。

…なんというか、夜中のテンションという、夜中になるとハイになり会話も凄くなるように、夜中の勢いというものがあるのだと思う。
寝る時には部屋も小さな電球一つにして、ほぼ真っ暗に近いからあまり恥ずかしさはなく、かわりにあるのは隣に誰かがいるという安堵感だった。
けれど朝の爽やかな日差しを浴びて寝ている金髪イケメンが真横で寝ているのを見て、平常心でいられるわけがないのに、私の馬鹿。


とは言っても、これ以上昨夜の私を責めても埒があかない。
なんせ昨日は私も追いつめられていた。
怖い話はとても苦手なのに…それでいつも通り離れて寝る?
…そんな事したら目の下に巨大な隈が出来ていた事だろう。

因みに何時もは、ベッドが左上端で私が上向きに寝ていると仮定すると、シャルは右下端の床に布団を敷き、下向きに寝ているので、以外と同じ部屋だけれど遠くに感じる。
でも今は。

「…っ」

とりあえず、「仕事に行ってきます。お昼ご飯は冷蔵庫の中です。なまえ」という書き置きを残して家を出た。







「あれっ」

置き手紙が置いてあるのを見て、もう出たのかと気づく。

起こして良かったのにと思うものの、なまえの事だから朝になって急に恥ずかしくなったとかだろう。


「まったく、可愛いなぁ」

思わず笑いをもらしてしまう。
昨日一緒に寝ると言い出した時には何を言ってるんだ無防備なと思ったものだけれど、それを忘れてしまうくらいお化けなんてものに怯えて、朝は慌てて出てしまうくらい恥ずかしかったのだろう。


…そんななまえを見ているのが楽しい。

「…困ったなー」

さっさと帰りたかった筈だったのに。


…そんな事を考えながら、冷蔵庫のご飯を食べ、テレビや本を読みながら時間を過ごした。

「……なまえ遅いなー」







「…遅くなっちゃった」

すっかり暗くなってしまった路地を、少し駆け足で進む。
…仕事が長引いてしまった。
シャル心配してるだろうか。
そんな事を考えていると、人にぶつかった。

「きゃっ!」
「んぁ〜?」
「ごっ、ごめんなさい!」

暗かったし、急いでいたから、人が横から出てきたのに気づかなかった。
頭をあげて、その人を見るとフラフラとしていた。
…酔っ払いか。

「で、では私はこれで…」

そそくさと退散する事にする。
酔っ払いほど厄介な生き物は居ない、と私は思うのですよ。

「待ってよー」
「いっ!?」

腕掴まれた。
捕まっちゃったよどうしよう!

「ちょっと話くらい聞いてよー…」

げ、絡み酒か。

「あの、私急いでまして…」
「嫁はさぁー、最近冷たいし夕飯手抜きだし、娘なんて俺無視するし洗濯物分けさせるし…」
「は、はぁ…それはそれは」
「俺があいつらの為に一生懸命金稼いでるのにさぁ…」
「…はぁ…」
「ひどいだろ?」
「そ、そうですね」

どうしよう。
逃げられないっぽい。
…そりゃあ酔っ払って若い女の人に愚痴を吐くんじゃ奥さんも冷たくなるのでは…。ううん…。

「あー、だよなぁ。分かってくれるよなぁ」
「…は、はぁ」
「あんたは俺の味方だー」
「や、きゃっ、ちょっ…!」

抱きつかれた。
…お酒臭い、気持ち悪い!

「やめてください!」
「ちょっとぐらいいいだろー、高い金払ってんだから」
「は!?ここキャバじゃないから!というかキャバクラ行ってんのかよ!」

そりゃあ奥さんも冷たくなるわ。
自業自得じゃないか!


「なー、可哀想な俺を慰めてくれよー」
「ひゃっ…、やだ、やめ…っ」

こいつ胸触ってやがる!
しかも、シャツのボタンを外しているし、何するのよ…っ、…怖い。

「やっ…はなしてっ…」

じわりと涙が滲んできた。

「…けて」

おねがい、だから。

「助けて…っ、シャル…!」

ゴッ!と鈍い音がした。
滲んだ視界の先に見えたのは。

「シャ…ル…っ」
「……なまえ、…大丈夫?」
「う、ん…」

シャルはちらりと一瞬、私の体を見た。
胸元は乱れていて、スーツはぐしゃぐしゃだ。

「…まったく…さ」

シャルが男に近づいて、顔を掴んだ。
男はもう気絶している。

「なまえに何してんの?」

思いっきりシャルが腕を上げて、おろそうとした。
…シャルの力で、殴ったら…!

「シャル、駄目っ!」

私が叫ぶと、シャルは止まって、私を見た。

「…なんで?なまえ、こいつに強姦されかけてたんだよ?」

そう言ったシャルの目は冷たくて、私はビクリと体を揺らした。
いつもとちがう…怖い、シャル。…でも。

「殺しちゃ駄目だよ、シャル…」
「……今更だと思うよ。俺向こうの世界では…」
「向こうの世界の事はどうだっていい。あのね、シャル…向こうの世界でした事はね…シャルがしたくてしたんでしょう…?でもね、この世界で、私のせいでシャルが殺しをするのは嫌だよ…」

涙がぽろぽろ出てくる。
違う、違うの。ごめんなさいシャル。
殺しをするあなたが嫌なんじゃなくて、殺しをしなきゃいけない状況にしてしまった私が嫌なの。
…私は、身勝手だから。


「…まったく、なまえはわがままだなぁ」
そういいながら、私を抱きしめてくれたのは、いつもの優しい声のシャルだ。
「うえぇぇんっ、だってええぇぇ!」
「よしよし、怖かったね」




シャルといると、落ち着く。
シャルといると、あたたかい。
シャルといると、しあわせ。

怖かった感情を全て消し去ってくれた。
私を守ってくれたあなたが。


私は、好きなのかもしれない。


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