なでなでなで。
「ふぅー…きもちー」
なでなでなで。
「チャーム出ないねぇ」
只今、シャルナークさんになでなでしてもらっているのだけれど、一向にチャームが増えることはなかった。
「んー…、同じのは駄目なんですかね」
「そうっぽいね」
という事はなでなでをお願いはもうできないのか。何だかがっかりだ。
「まぁ、なんかしてほしい事決まったら言ってよ」
「…はい。…あ」
「どうかした?」
「今日夕飯の材料足らないや」
「…もしかしてオレが来たから?」
昨日はシャルナークさんが来たので、3日分の材料をすべて使ってしまったのだ。
「シャルナークさんは悪くないですよ。もともと食材が少なくなってましたから」
「…なまえ、ありがとうね」
そう言ってシャルナークさんは私をなでてくれた。
ほわほわと暖かい気分になる。
やっぱりこういう時のなでなでは別格だわ。
「これくらい、おねがいじゃなくても俺がしたくなったらするよ」
「……はい」
そっか。おねがいじゃなくても、してもらう事は出来るんだ。
「…それじゃあ…えっと、シャルナークさん。私近くのスーパーに行ってきますね」
「スーパー…。うん、オレも行くよ」
「え、大丈夫ですよ?私1人でも」
「協力してもらってる上、養って貰ってるんだよ?オレ。荷物持ちくらいするさ」
「あ、じゃあおねがいをー…」
「おねがいじゃなくて、これはオレがしたい事だから。ね?」
とりあえずそう笑いかけるシャルナークさんに甘える事にした。
「…あれ、でもシャルナークさんお洋服無くないですか?」
「今着てるのは駄目かな?」
「んー…こっちの世界じゃ普通とは違うんですよね」
むしろコスプレと思われたら厄介だ。
公共の場でやるなんて、マナー違反はオタクとしてしたくない。(本当はコスプレじゃないけど)
「じゃあスーパーの前にお洋服買いましょう」
「そこまではどうするの?」
「お兄ちゃんのこないだ置いていった洋服がありますから、それでいきましょう。サイズは少し違いますが我慢して下さいね」
「なんか…かえってごめんね?」
「もともと必要だとは思っていましたから。いい機会ですよ」
*
ということで、ユニシロとじまむらにやってきました!
「なまえ適当に決めてくれる…?」
「え、なんでですか」
「この世界の感覚を知ってるのはなまえだし。俺多分金銭感覚も狂ってるよ?」
「んむぅ…嫌だったら言って下さいね…?」
「分かった」
それから、私は適当に見繕ってポンポンとカゴに入れていった。
とりあえず無難なシャツを数枚。
ジーンズとかの着まわしがきくものも入れていく。
パジャマはスウェットでいいかな。
さすがに下着はシャルナークさん判断でお願いさせていただいた。
無理、ゼッタイ。
あと男性用のスニーカーもひとつ購入した。
そして購入したものを試着室で着させてもらって、おしまい。
「畜生、シャルナークさんのイケメンめ。何着ても似合いやがる」
「そう?ありがとう」
シャルナークさんいつも余裕でいおって…イケメン爆発しろ!
*
「シャルナークさん何食べたいですか?」
洋服を買い終えた私達は、今度はスーパーに来ていた。
「オレ?んー、どうしようかな。なまえはなんかないの?」
「シャルナークさんの食べたいもの」
「あ、それ卑怯」
うーん、と口元に手を当てているシャルナークさんは大変絵になっている。
「ねぇ、なまえ」
「どうしたのシャルナークさ…ん!?」
私は今、どうやら後ろから抱きしめられているようだ。
皆様分かってますよね!?私は、リア充度0の!チキンな!二次元一筋のオタク!
「ねー、オレ優柔不断なんだー」
「ははははひぃ!?」
「だからさー、なまえが好きな料理が食べたいなー」
「ひいいぃぃ!分かりました分かりました分かりました!」
「ハイ、交渉成立ー」
シャルナークさんはニコニコ笑いながら私を放した。
、遊んでやがる!
何が交渉だッ!
顔の火照った感じが一向に治まらん!
「じゃあもうオムライスにしちゃいますからね!」
「うん、楽しみ」
畜生、可愛い。卑怯者め。
*
「玉ねぎピーマンにんじんウインナーじゃがいもキャベツトマトピューレ味付け塩胡椒卵ケチャップ麦茶2L3本お米10kgその他諸々数日分の食材。それどころかちょうど減ってたトイレットペーパーティッシュキッチンペーパーまで」
「うん」
「それ全部持たせるなんてできません!」
「オレ大丈夫だよ?この位片手で持てるさ」
「私が大丈夫じゃないですううぅ!」
私がそう言ってもシャルナークさんは「え、なんで?」とのたまいおる。
幻影旅団の一員だろうが気を使うものは気を使うのだ。
「じゃあペーパー類はなまえの係って事でね?」
「軽っ!それじゃ悪…」
「はい、れっつごー」
「わっ、ちょ、待って下さいシャルナークさんん!!」
どたどたと慌ただしくシャルナークさんを追いかける。
シャルナークさんは私が大股で歩いているのに気づくと、少し速度を落とした。
「シャルナークさんっ、早いですよー…!」
「ははっ、ごめんごめん」
重い荷物をものともせず、手を口元に当ててくすくすと笑っている。
「そっか、なまえは女の子だもんね」
「そーですよー!」
まったくシャルナークさんは何を考えているんだ!
私はれっきとした女です!
「でもなまえは一般人の女の子よりさらに弱いっぽいね?」
「そりゃそうですよ!まったく、私はハンターハンターの世界の女の子とは違うんだから」
「え?」
「あ、なんでもないです」
私はシャルナークさんに会って、絶対原作の事を言わないと決めた。
言ってしまえば、シャルナークさんはきっと身構える。
ひょっとしたら嘘ではないかと勘ぐる。
念の存在を疑う…。
そうしたら、シャルナークさんは…人を殺すかもしれない。
だめだ。あちらの世界では旅団として人を殺しても、絶対…こちらの世界でまでシャルナークさんを罪人にはしない。シャルナークさんに協力すると決めた時私は、そう…決めたんだ。
「あれ、どうしたの?なまえ」
「…なんでもないです。…ねぇ、シャルナークさん」
「何?」
「手、繋いで下さい」
片手で荷物を持てているんだからいいだろう。
「ね、シャルナークさん…。お願いです」
「…うん」
す、とシャルナークさんが手を差し出して、私がその手を握った。
離さないから、絶対。
この世界にいるかぎり、ずっと…私がシャルナークさんを守るから。
そんな私に応えるように、1つ増えたチャームがキラリと光った。
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