私は目をぱちぱちと数回瞬かせた。
ついでに尻餅もついている。
目の前の現実が信じられなくて、ごしごしと目をこすってみたけど何も変わらなかった。

つまり私は、驚いてるのである。そして否定したいのだ。


「あな…た…は…」



目の前の金髪の青年は私をスゥ…と見据えた。
「…はじめまして」
「は、はじめまして…」

相手の言葉に私も応じる。
…いやいやいや。

「そうじゃないでしょう」

私の目の前にいる金髪の青年。私は彼を知っていた。

(シャルナーク、だよね…?)

ゴクリと唾を飲む。
私が先程読んでいた、H×Hという漫画に登場するキャラクターだ。
つまり二次元の人物だ。

「なんで三次元にいるのさ…」

思わずぽそりと口にする。

「え?何?」
「ナンデモアリマセン」
「そう?言いたい事は言っておいた方がいいよ?これからしばらく一緒に居るんだから」
「………はぁ?」



彼…シャルナークは、私の目の前に突然現れた。
原因は彼によるとこうだ。


彼は異世界の住人で、不思議な力(多分私が念を知らないと思ってるから)を受け、異世界である此処に飛ばされた。
そこで会った人(同じ人)のお願いを8つ叶えた後、「ご褒美」手にする権利が与えられる。それらを終えると戻れるという仕組みらしい。


「…えっと、ご褒美ってなんですか?」
「それがさ、その時が来たら分かるっていう曖昧な情報なんだよね」


因みにシャルナークさんはというと、私がただ話すのもあれですしととりあえず持ってきた、大池屋のポテトチップスをぱりぱりと食べながら話している。美味しいよねポテチ。やっぱりポテチは大池屋だよ。


「とりあえず戻る為の手伝いを私にして欲しいという事ですね?」
「そういう事だね」
「でも私でいいんですか?」
「まぁ、はじめて会ったこっちの人間だし、突然現れるという状況に出くわしたから説明も簡単。だからオレも真っ先にお願いしたんだよね」
「はぁまぁそうですよね」
「まぁこれも何かの縁って事でよろしく頼むよ」


ニコッと笑ってお願いされる。
私だってこんな二次元キャラクターをお目にかかる機会なんてないから、気分は悪くない。
まぁ、これも二次元が来い!と二次元一筋で生きてきた私へのご褒美だろう。
え?恋愛経験?ないよ!
告白された事は一応あるけど、する勇気は無いから好きな人とは近づけないまんまだったしね。
ついでに途中から完全に二次元万歳で生きてきたからね!てへぺろ!

「あ、そうだ。オレの名前ははシャルナークっていうんだ。よろしくね」

知ってます。…とは、言えない。

「みょうじなまえです。どうぞよろしくお願いします」
「みょうじって変わった名前だね…?」
「いえ!反対です!なまえが名前です!こっちは順番が逆なんです!」
「うん、そっか。なまえ、よろしく」


キャラになまえと呼ばれるなんてなんて素晴らしいの!?


「ところでなまえ」
「はい」
「ひとつめのお願いどうぞ」
「え、あ、うーん」


悩む。すごく悩む。どうしよう。


「別になまえが一生遊んで暮らせる程の金銀財宝を盗んできてもいいし、嫌いな奴がいたら誰だって殺す。オレはなんでもいいよ」

盗みや殺しのような非人道的なものは私にはきつい。気持ち的に。
あちらとこちらでは全くその行為に対する考え方が違うのだから仕方がない。

「じゃー、あの…」
「うん、何?」
「なでてください」
「…え?」
「なでてください」
「撫でるって…頭を手で触るあれ?」
「はい。あれ、駄目ですか?」
「…いや、そんな事でいいの?」
「はい。私撫でられるのすごい好きなんです」

今とっさに思い浮かんだのがそれだし、撫でられるのは私は好きな方だ。
まだ7つあるし、こういうのもいいと思うのだけれど。

「…まぁ、ならいいけど…」


変わってるなとか欲が無いなとかぶつぶつと口にしながら、シャルナークさんは私を撫でた。
うん、やっぱり撫でられるって気持ちがいいね。
キャラに撫でられるのはオタクの夢だよ。


「ふへへ、ありがとうございました」


すると、ぽん、と手首にブレスレットが現れて、1という形のチャームが付いていた。
なかなか綺麗だ。

「…これで1つ完了って事ですかね?」
「オレもこんな内容だと思ってなかったからちょっとびっくりしてるよ」
「まぁ、とりあえず…8つになるまでよろしくお願いしますね」
「それはオレの台詞だよ。よろしく、なまえ」



そんな奇妙な同居生活は始まったのです。


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