「よいしょっ」

着替えその他諸々を入れた、リュックサックを背負って準備オッケー。

イルミさんはいくよと私を促し、一緒にゴトーさんが運転する車に乗り込んだ。
ハハッ、ゴトーさん苦手なんでつら。

「…トルテ」
「はい?」
「…あとででいいや」
「そうですか?」

ちまちまとやりとりをするうちに、飛行船の乗る場所に着く。







「なんか意外です」


飛行船の部屋に案内された。
何故か2人部屋なのだけれど、お金は全額イルミさんなわけだから文句は言えない。
それに久しぶりの再会だ。
話したい事も、聞きたい事も…お互いあるのだろうから。

「何が?」
「ゾルディック家の事だから、自家用ジェットとかでひとっ飛びかなって思ってました」
「それでもいいけど、キルに見られるかもしれないからね」
「別にいいじゃないですか見られて。普通に迎えに行けば」
「まぁ、家を出たキルが何をするかも気になるし、万が一の切り札はとっておかなきゃ」
「趣味悪いなぁ」


まぁ、私は漫画でどうなるか分かってるだけに、この台詞は相当悪趣味かなって。


「そうだ、少し戦ってみようか」
「え、イルミさんとですか?」
「うん、君の腕が鈍ってないかなって。ルールはお互い殺さない事」
「私が殺すって事は無いでしょうが…じゃあ、少しだけ…」


ソファから立ち上がって、構えをとる。

せっかくだから、私から仕掛けようか。

地面を思い切り蹴り、間隔を詰める。
まぁ、軽々また間隔を広められちゃうのだけど。


「動きはなかなかいいね」
「あっちでも、訓練は欠かしませんでしたから!」
「あっち…って事は、君を殺そうとした奴は倒せたの?」
「一捻りでしたよ!手を払うだけで骨が折れる軟弱な奴でした」
「なにそれ、そんな奴に殺されかけたの君」
「はい、それでも普段は…平気な世界だったから」

会話をしながらお互い動きは止めずにいる。

「でも君はどうして訓練を続けたの」
「え?」

一瞬反応が鈍ってしまい、頬に針がかすった。
…体が多少ピリッとした。痛みじゃないこの感覚は…あぁ、久しぶりかもしれない。

「毒がついてますね、針に」
「うん、まぁね。痺れるでしょ、体」
「そうですね少し動きが鈍いです。でもあんまり支障は無いですね」

そのまま戦闘を続けると、「うん、上等」とイルミさんが言った。

「あれ、終わりですか?」
「うん。半年その平和な世界に居た割には上出来だよ。オマケして」
「オマケしてですか…。まぁ、あっちに戻ってからはそれなりにスリリングな日常を送ってはいましたよ」

若干ピリピリする体を動かして、ソファに沈み込む。
んー、ちょっと疲れた。

「で、さっきの質問だけど」
「え?」
「なんで訓練を続けたの?君を殺そうとした奴さえどうにかすれば、あとは強くなくていい世界に居たんでしょ?そのまま強さを手放しても良かったのに」
「…別に、私は…なんだか…寂しくて…」
「何が?」
「…何でもないです!シャワー浴びて寝ます!」


質問を途中で打ち切って、バタバタと音を立てて浴室に向かった。



…確かに、私は忘れようと思った。寂しいという感情に気づかないように過ごそうとした。
それでも私は、私の強さは此処に居た証だから。
私は、強さを手放して、此処に居た証を手放したくなくて、ただ、それを伝えるのは恥ずかしいから絶対嫌なのだけど。


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