目が覚めると、目の前にイルミさんがいた。
「あ…れ?」
私マジでイルミさんを呪いにきたんだろうか。
しかしそれならば、覗き込むのは私ではないか。
何故私はイルミさんに逆に覗き込まれているんだ。
「あ、目が覚めた」
目が覚めた。
と、いうことは…。
「私…死んで、ない?」
「まぁね」
「な、んで…」
「ここ5日は死人のようだったけどね」
なんとかなったね。すごいすごい。
…そんな感じに無表情で拍手される。
「…イルミさん、呪われずにすみましたね」
「なかなかいいと思ったけどね」
「どこがいいんですか」
イルミさんの言葉に眉をひそめる。
「まぁ、なんか食べるもの持ってくるよ」
「ありがとうございますー。もう毒をいきなり致死量盛らないで下さいね…頼みます」
「気が向いたら」
「気が向いたら!?」
なんだこの人は。油断ならないわー。
ご飯を取りにドアの向こうに消えたイルミさんを見て、ふぅ…と息を吐いた。
…死んだかと思った。
もう無理かと思った。
…ふざけんな、とは思ったものの、一度『死を覚悟する』体験をした私は、見ず知らずのジャック犯に殺されるよりかはずっといいとは思えた。
まぁ、呪ってやるとは思ったけれど。
…正直、此処に居るのは辛い。
独房行きになった時はいっそ「殺してくれ」とさえ思ったし。
拷問の訓練だって、今舌を噛み切ってしんでやろうかとさえ思ったものだ。
しかしそんな時脳裏をかすめるのは『死』という文字だ。
死とはなんだろう。
天国にでも行けるだろうか。地獄にでもおちるだろうか。
なるほど、それならいいかもしれない。
けれど死後の世界は『無』だったら?
この辛いという思考も『死にたい』『生きたい』と思う思考さえ全てが無に帰すのなら?
私は、それが一番怖い。
私がいない。考える事も、何もない世界を想像する事が、とんでもなく恐ろしいんだ。
生きる為ならなんでもしてやる。
死にたいとその場で思っても、絶対耐えてやるんだ。
「お前何そんな難しい顔してんの?」
「ぎゃ!?」
突然の声にびっくりして肩を揺らす。
声のした方向を見ると…。
「キルア君…?」
「おー」
「もしかして心配して来てくれたの?おねーさん超うれしー!」
「ばっ、くっつくな…!」
キルア君をぎゅうぎゅう抱きしめると、真っ赤になって暴れ出した。やばい、超可愛い!
「うふふふふ」
「キモイ」
ついには、うげーっとした顔で見られて、渋々手を離す。
「お前5日も寝込んでた割に元気だな」
「キルア君で充電したからー!」
「…さっきまで何考えてたんだよ。すげぇ難しい顔してたけど」
「んー、何でもないよー」
「…まぁ、イル兄に殺されかけて色々思うところもあったんだろうけどさ」
「…え、あぁ…」
「でもさ、イル兄仕事以外の時殆ど付きっきりでお前の近くにいたんだぜ?」
「え…!?嘘ん!」
「嘘じゃねーよ。…んじゃ、お前大丈夫っぽいし、イル兄が来る前にオレ退散するから」
「え、あ、うん!?じゃあね!ありがとー」
手を振ると、キルア君もドアの向こうに消えていった。
すると、ほぼ入れ替わりでイルミさんがやってきた。
「ほら、お粥。一応毒控えめ」
「(一応入ってはいるんだ…)え、お粥なんてあるんですか嬉しいなー」
「いや、カルトがさぁ…『なでしこ姉様はヤマトナデシコなんですし、ここはお粥ですよ!』とか言ったもんで使用人大慌て。何?なでしこ姉様って」
「いやー、私もなんというかー…」
大和撫子とは程遠い私をカルト君は未だに大和撫子として慕ってくれているらしい。
嬉しいような恥ずかしいような複雑な心境である。
「ま、冷めないうちに食べなよ」
「あ、はい。いただきまーす」
木製スプーン(ありがたい)で掬い、ふぅふぅと息を吹きかけて冷ましながらいただく。
…うん、おいしい。
「おいしいです」
「そう、良かったね」
「カルト君にお礼言わなきゃなー」
此処は辛い。
でも、変わらずご飯はあったかくて、人の温もりも…少し分かりにくいだけで、変わらない。
…私、嫌いじゃないよ、此処…。
だから。
「ありがとーございます」
「…え?今なんて?」
「なんでもないでーす。お粥おいしー」
もう少しだけなら、このままでもいいかなとかたまに思っちゃう辺り甘いんだよね、私は。
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