風邪もすっかり回復し、イルミさんから軽めの訓練を受けた。
結局あれ冗談なんですかね。どうなんでしょう。
あれから一切触れられてないんですけど?


「んー、しかしまだ体だるいなぁー」

のそのそと廊下を歩いていると、どん!とデカい何かにぶつかった。
んー…なににぶつかっ……。


「あの時のやかましい娘か」

その正体は、あのシルバさんだった。

「ひいいいぃぃ!すみませんすみません!」
「別にいい」

土下座する勢いで謝ると、シルバさんは若干引いていた。ついでに…ちょっと面倒くさいって顔してた気がする。

「そ、そうですか…では!」
「…待て」

ダッシュでその場をを去ろうとすると、ガシッと腕を掴まれた。
…何か今ミシッて音したぞこのやろう!


「…ちょっと来い」
「…へ?」


シルバさんは、そう言った後グイグイと引っ張り出しやがった。
グアアアアァァ!
これヒビとか入ってないですかね!すっごく痛いぞこのやろうおうおう!
しかし、チキンな私は、言う勇気が出ないのである。へへっ!





「イルミはどうだ」
「はぁ…。え?」
「たまには息子の様子を知るのもいいかと思ってな」
「は、はぁ…。ほ、本人にはお聞きになられないのでしょうか…」
「聞くくらいするさ。だがな…」






「イルミ、最近調子はどうだ」
「え?あぁ…最近新しい毒が出来たでしょ?あれ慣らしてるからちょっと身体だるいかなー」
「…そうか」





「大抵体調を答える」
「そ、そうなんですか」
「因みに大抵頗る快調だ。…まあ、だから最近お前と居る事が多いからお前に聞く事にしたんだが」
「えっと…私に聞いてもあまり楽しくないかと」
「別にいい。お前から見てあれはどうだ」
「えっと…」

悶々と考えてみる。

「結構ドSですよね。なんか私が苦しそうにしてたり、毒に耐えきれずにぶっ倒れてるとなんか楽しそうです」
「…そうか」
「ついでによく『馬鹿なの?ねぇ、聞き取れないよ。本当に弱いね、生きてる価値あるの』とか私が毒で喋れない状況でも攻めてきます」
「…そうか」
「あれは…あなた似ですか」
「そうだな、俺も若い時にはよく夜にキキョウを」
「わーわーわー!」


毒は置いといて、言葉攻めはお前のせいかこのやろう!


「どうしたやかましい」
「はは…」

もうやだわこの親子。

「でも…そうか」
「?」
「心身ともに元気そうだな」

そう、ふっと笑ったシルバさんは普通のお父さんに見えた。

「それに、本当にイルミは育てるのが上手いな」
「…そうですねぇ」
「お前も一応筋肉の付き方が変わっている。成人ぐらいの女を此処まで育てあげるとは本当にさすがだな」

そう考えてみればそうだ。
未成年のまだ成長段階の身体を鍛えるのとはわけが違うのだ。
私は幸せ者だ。
トリップしたのに、絶世の美人になるわけでもなし、ナイスバディになるわけでもなし、もう念を覚えてるとか強くなってるとかトリップ特典なんてありゃしなかった。
そもそもが、生きるため強くなるためのトリップだから。
でも、あれがカミサマなら、イルミさんの所に送り届けてくれたのは大正解だ。
毒に慣れるのはわけわからないけど。毒に慣れるのはわけわからないけど。


「あの、シルバさん」
「何だ?」
「たまにたまにすごくたまに稀に気が向いた時にですが…イルミさんって優しい人だなーって思う時があります」
「あいつがお前を此処に置いている時点で、『優しい』に入るだろう」
「…そうですね」

シルバさんは、イルミさんをよく見ているんだなぁ。

「ただ…」
「?」
「その『優しい』はゾルディック家にとって必ずしも良いとは限らない」
「…はい」
「お前によってイルミの『それ』が…相手に情がわくようなものが目覚めてしまっていたら…お前はゾルディック家に、イルミに害をなす者と考えられる」
「…」
「これ以上情がわく前に、今、お前を始末するのもいいかもしれない。仮の考察として…イルミがゾルディック家に反発し、結果イルミを始末する羽目になる前に」
「…」

それもそうだ。
でも…。

「あの…っ」
「半分冗談だ」

半分は本気ですか。

「あいつはそんなに意志が弱くも馬鹿でもない。…それに」

…それに?

「ペットが居なくなると、大抵拾ってきた奴はうるさいもんだ」

だから、お前はまだ殺さないでやるよ。



そうシルバさんは言ったのだけど。
あのですね、シルバさん。
あなたも十分、優しいと思いますよ。


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