「日本食が恋しい…」
洋食派だった私だが、此処にいると猛烈に日本食が恋しくなる。
お米が食べたい。お味噌汁がのみたい。
何だろうね…こっちのご飯は…食べるのだけで命がけだしさ…。いや、それはゾルディック限定だけど。
そんな事を考えながらうろちょろしていると、キッチンらしき所にたどり着いた。
いやー、こんな所に来ても日本食が食べられるわけじゃあるまいし…。
そう思っていると、ふわりと味噌の香りがした。
味噌!
心の中でそう叫ぶと、キッチンのドアを思いっきり開けた。
「誰!?」
綺麗な顔立ちに、日本人形のような髪。加えて可愛らしい和服姿。
…カルト=ゾルディック。
「えっと…」
しばらく考えて、なまえという名前を名乗ろうとした口を閉じる。
と、とりあえずー…。
「イルミさんに拾われてペットになったト…トルテです…」
ううん、自分で名乗るのは抵抗があるなぁ。
「トルテ…。イルミ兄さんのペット…?」
じろじろと訝しげな目で見てくるカルトに苦笑いする。
あー、警戒されてるなぁ。
「一応名乗っておくと僕はカルト。…ふぅん、兄さんも趣味が悪い」
「言っておくけど、訓練犬方面だから。カルト君たらおませさん」
「そっち方面としても趣味が悪い」
「返す言葉もございません」
「大体そのヒラヒラの服は何なの?似合わない」
はい、ヒラヒラの言葉で分かったと思いますがこの服はキキョウさんに着せられましたよ。
「あなたのお母様の趣味よ」
「えっ」
言葉を詰まらせて、色々考えている様子のカルト君。
「なんか…ごめん」
「いや…おかげで私も服困らないし…。それよりさ…お味噌の匂いがしてたんだけど」
「ああ。ボクちょっとジャポン料理に興味があるんだけど、その中のお味噌汁っていうのを作りたくて」
何だって!
「カルト君!」
「な、なに」
「ちょっとそれ私にも飲ませてくれないかなぁ!?」
「残念だけど失敗したんだ。なんか異様にしょっぱいし、美味しくない」
「じゃあ材料貸して!」
はぁ?というカルト君に「お願い!」と頼みこむと「失敗したら殺すからね」とため息混じりに許可してくれた。
デットオアアライブとはいえ、お味噌汁を失敗はする気はしない。
よし!
「まず、小鍋にお水入れてー。火にかけてっと。お、油揚げとお豆腐とネギあるじゃーん!」
「適当に取り寄せたから」
「あ、そうだ。お出汁とらなきゃ。顆粒のやつあるわけないし…。鰹節とか煮干しある?」
「煮干し…とかいうのはないけど、鰹節なら…」
「ありがと。じゃーこれで出汁とってっと」
あとはネギを適当に切って、お豆腐と油揚げも切る。
ザーッと具材を入れて、ちょっとしたらお味噌を入れる。
おたまでお味噌をすくって、菜箸で少しずつ溶かしていく。
ぐつぐつしてはい出来上がり!
「できたよ、カルト君!」
そう言うとカルト君は目をぱちぱちとした。
器(お椀が無いので洋風なのが気になるけれど)によそり、カルト君に差し出すと、カルト君はそっと口にした。
「…お、いしい」
「でしょう?」
それから、一気に飲み干したカルト君は「お…おかわり」と言った。
じゃあ2人でのもうってなって、2人でいただきますした。
「あぁ、久しぶりのお味噌汁ってなんて美味しいの!」
「トルテ…すごい、美味しい…」
すると、キラキラした目でカルト君は私を見た。
「今度、ボクにも教えて」
「うん、いいよ!」
「えっと…あの…」
カルト君がもじもじし出したので、不思議に思いながらカルト君を見た。
「なぁに?」
「トルテみたいなのを大和撫子っていうの…?」
いやぁ、私みたいなのを(お味噌汁だけで)大和撫子って言ったら、本当の大和撫子に悪いなぁ。
「なでしこ姉さんって呼んでいい…?」
「…え?」
「なでしこ…姉さん…」
にへへ、と笑う可愛らしいカルト君に、「駄目」なんて言えなかった。
(なんかどんどん名前が増えてるような…)
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