彼女は思ったより強かった。

それは肉体的な意味ではなく、精神的な面…所謂メンタルが強いのである。
俺の計算ではものの数日で「死にたい」と言うか俺には絶対に逆らわない…いや、逆らえない状態になると思っていた。
そうじゃなくても、もっとすがりつくかと思ったのだけれど…。


「イルミさん…痺れてきまひた」
「今日は痺れ薬だからね」
「ひょっと分量間違えてまへん?」
「間違えてないよ」
「うごけにゃひ」
「喋れれば十分でしょ」
「ほれで喋れてるってひいまふかー!」


なんというか、良く言えば威勢がいい。
悪く言えば馬鹿。

「もと居た場所に捨ててこようか」
「ふいまへん」

こう言えば真っ先に謝る。
そうなるなら最初から口答えしなきゃいいのに。

「あと10秒で動けなければ捨てるよ。はい、いーち」
「ほにー!」

そう言いながらも、倒れた状態から四つん這いまで起き上がった。

「はぁ…っはぁ…っ」
「結構動けるでしょ」
「ほれが限界れす…っ!」
「ねぇ」
「なん、れすか…っ!」
「君って馬鹿なの?」

そう聞いた途端、彼女は地面にべりゃりと崩れた。

「ひきなり失礼なことを言いまふね」
「事実じゃない」
「どおしてでふか」
「だって君には俺しかいないんだし、俺に媚びとけば安泰じゃない」
「イルミはん…媚びられたいんれすか」

キョトンとした顔で俺を見た彼女に、俺は少しびっくりした。

「別にそうじゃないね」
「ならいいじゃないでふか」

そうだ。例えば彼女は俺に付き従ってばかりでずっと俺に媚びていたらどうだろう。
逆にとっくに飽きて捨てているかもしれない。


「私…イルミさんに感謝はしてます」

はぁ…はぁ…と息を漏らしながら彼女は起き上がって座り込んだ。
痺れに慣れてきたのだろうか。

「イルミさんが居なかったら、私はあのまま野垂れ死んでいただろうし、私が生きる為に強くしてくれてる」

彼女がただの馬鹿じゃない事なんて分かっていた。

「でも、痛いのはやだし、毒なんて本当に勘弁して欲しいって正直思っちゃうし…。できたら強くなれたらさっさと元の世界に戻りたい。そんで紙面のイルミさんに落書きしてやりたい」
「そこまで言う?」
「だから…頼るけど、依存はしません」


依存はしない。でも彼女は俺の事を頼りにはしているらしい。
それは、信頼とかそういった…。


「君は本当によく分からないね」
「そりゃどーも」

ほっ!と思い切り立ち上がった彼女は「よっしゃあ立ったー!」と叫んだ。


「どうですかイルミさん!」

この程度でもドヤ顔で俺を見る彼女は見ていて飽きない。



(支配してやろうと思ってたのになぁ)


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