彼女の話は夢物語だと思う。
馬鹿馬鹿しいくらい平和な世界から一転したという点だけならば、こちらからすれば驚く程平凡な展開だが、問題はそれ以外だ。環境ではなく彼女にとっての変化は世界そのものである事もわけがわからないし、カミサマモドキがなまえを助けて此処に飛ばしたのも理解できない。
こちらの世界が書物としてあちらの世界にあるのも信じがたい。
結論を言うと馬鹿みたいだ。彼女を信じるつもりは無い。
でも、彼女に嘘は無いと見極めた自分は信じている。
だから、結果的には俺は彼女の話を本当の話として扱う事にした。
まぁ、とりあえず。


「…長いね」
「はぁ…まぁ」
「省略とかできないの?」
「すみません…」

へこへこと謝る彼女に少し顔をしかめる。

「ねぇ、君さ」
「はいぃ!」
「そのすぐ謝る癖みたいなのなんとかならないの?」
「あ…」

彼女は手を口元に当てて考え出した。

「…私って前の世界では日本っていう国の人間なんですけど」
「…」
「その国の人間の特徴というか…あの、癖を通りこしていてなかなか」
「へぇ」

という事は、そのニホンという所では彼女みたいなのがぞろぞろといるのか。
なんだそれは…そんな所に居たら気が狂いそうだ。

「100歩譲ってうちの敷地内までならそれを許すけど、外ではそれやらないでね」
「どうしてですか?」
「謝るって事は自分の非を認めるって事だよ?そんなのつけ込まれて終わりだね」

此処は君の世界でもニホンでもないんだから。と付け足すと、彼女は一瞬泣きそうな表情を浮かべた後、「分かってます…」と付け足した。
…弱いなぁ。
なんて弱いんだろうか、彼女は。
確かに、俺も別世界に飛ばされたら焦るかもしれない。
しかし、所詮は想像ではだ。だから想像の域を出ない。

「私は…弱いし、馬鹿なのは分かってるんです」

ぎゅうと服を握る彼女は、あまり悲観的で消極的だ。
まあ、その通りであるのだけれど。

助けて、というのが分かるような目で彼女は俺を見る。
きっと彼女はしてもらう事になれている。

「言っておくけど君は困っていれば誰かが手を差し伸べてくれると思ってるみたいだけどこの世界はそんな事有り得ないからね」
「…っ」


彼女の肩が揺れるのを見て、俺は口角を少し上げた。
俺は「人を育てて支配する事」が好きなのかもしれない。
そして彼女をゾルディック家に有益になるようにすればいい。
駄目なら殺せばいいのだから。
…そのために、まずは。

「俺は厳しいよ」
「…っ、あ」


はい!そう縋るように俺に言った彼女に俺は手を差し伸べた。


(ならばまずは、俺が彼女の唯一になろうか)


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