変な臭い…?
錆びた、鉄の臭い…。

寒い。ここ、どこ?私ー…。



「…!」


意識が朦朧としてる中、バスジャックの事を思い出して一気に目が覚めた。
きょときょととせわしなく辺りを見回す。
なんだろう、違和感。人がいっぱい寝てる。いや、これはー…。

ふと下を見ると、目の前には赤い液体が広がった。
なに、これ…。


「あれ、まだ生きてる奴がいた」


周りで唯一立ってる男が私を向いた。


「だ…れ…」
「こっちのセリフなんだけど?君、だれ。さっきまで居なかったよね?だって俺全員殺った筈だし」


ぜんいんやった?
その言葉に違和感を感じて、もう一度周りを見ると、赤い液体の正体はー…。


「いやあああぁぁ!」


人から流れていた。
寝てるんじゃない、これは死んでいるー…。
カタカタと尋常じゃない震えがおこる。

「なっ、な…!」

「君、こいつらの仲間?」


ビクン、と体が跳ねる。
次は…わたし…?
逃げようとしても力が入らない。腰が抜けているのだろう。
いやいやいや、バスジャックから逃げて(?)これかよ!なんなのあの神様(仮)!


「あ…あなたも、私を殺すの…?」
「あなたも…?こいつらに捕まってたの?君。殺されかけたとか?んー、仲間だったら殺さなきゃいけないんだけど」
「…嫌!」
「我が儘言われてもね」

ふと、あの時ジャック犯が放った言葉が頭に響いた。
私は死ぬために生まれて来たんだと言ったあいつの言葉を。
…ちがう、私は。

「我が儘じゃない!私は、死ぬために産まれてきたんじゃない!…生きる為に、産まれてきたの…っ」



自分に言い聞かせるように強く放った言葉は、スゥ…と静かなこの空間に消えていった。
声に出さないと狂ってしまうような気がした。
だって何が悲しくて1日に何度も殺されかけなきゃいかんのだ。
何度も何度も死にかけてたまるかというか、死んでたまるかっ!


…プ。
クスクスクス。



あの、私一応大真面目なんですけど?



「あー、おかしい」

なんか恥ずかしくなってきちゃったんですけどおぉぉ!
しかもあんまりおかしいって顔してないし!
口は確かに笑ってるけれど、目元がまったく動いていない。
猫を思わせる黒い瞳は私を見据えたままだ。

「そんな笑う事…」
いや、顔は無表情だけど。
「そんな事俺に言う奴初めてだからね」
「はあ…」
「というか命乞いにしてもこんな事言った奴いないな。ゾルディック家にこんな変な説得みたいな事。金積むとか懇願ならあったけど」

言いながらクスクスと笑う彼。
…ん?

ぞる…でぃっく?


「ええぇぇ!!」
ゾルディックってあれですか。
あの暗殺一家もとい…ハンターハンターのー…!

よくよく見ると確かにその人は昔漫画で見たキルアのお兄ちゃんであるイルミそのもので。どおりで見たことあるような気がしたよこのキレーなお兄さん!
服生で見るとウケるなオイ!
っていうか、うそおぉぉ!なんて嬉しくないトリップ!
というかうろ覚えだよ話とか…とくに念あたり!
ハンターハンターの世界とか私死亡フラグじゃん。
そりゃあこの世界で生きられましたら、バスジャック犯もけちょんけちょんにできますわ。

「あ、あの…っ!」
「ん?」
「私はあの…気づいたらここに居たのでこの人達の仲間じゃない…です」
「んー、そうはいっても目撃者は殺さなきゃいけないんだよね。一応目撃者居たら困るらしーんだよね今回。口ではどーとでも言えるし」
「私は!」


私は必死だった。
どうにか生きたくて、あがきたかった。


「ここに身内もいなければ友人もいない!人脈になる人は1人もいません!」

言ってて悲しくなってきた。これ私ぼっちじゃん。寂しい奴だ。
いや、あれだからね?この世界ではだからね?
向こうの世界じゃちゃーんといるからね?友達も家族も。

「ついでに身分証明書になるものは一切ありません。というか戸籍とかないんです」

そうなんだよ。
別世界だからそういうことだよ。
これで仕事できんの?
通帳とか作れるの?
それとも…流星街だっけ?あれ出身だとおもわれるかな。
どっちにしろマジ死亡フラグ。


「だから…」



私は座ったまま手をイルミ…さんの前に出す。



「私を拾って下さい」


そうイルミさんを見ると、ブフッと声がした。

「助けてじゃなくて拾ってか」
「…はい」
「何君ペット?犬猫かなにか?」
「人間です!」
「噛みつく?」
冗談めいた口調で言ったイルミさんに私は必死で答える。
「噛みつきません!その辺なら躾いらずです!」
「躾ってやっぱりペットじゃん」


私は必死なつもりなのだが、なんともコミカルなやりとりになってしまった。
…どういうことなの。

「俺襲われるかもしれないし?」
「襲いませんし襲えません!私がどれだけ弱いか分かりますか!」
「今居たバッタくらい」
「虫は失礼!」
「因みに今君の肩の上」
「ヒイイィィ!とっ、とって下さい!」


はぁ、と息を吐いて、イルミさんは私の肩に居るバッタを取った。
その時ボソッと虫以下とか…とか呟いていた。
へいへい悪かったですねー。


「君本当に犬猫(一般家庭の家から出たことない箱入りの弱々しい何もできない)レベルだね…」
「うう…っそこに帰ってきたっ…!」


途端、イルミが何かを思いついたかのように手を伸ばしてきた。


「ひ…っ!?」
「よーしよし」


表情を崩さずに淡々とそれを行うイルミさん。
イルミさんは私の顎を指でわしゃわしゃしていた。
ちょうど犬にやるような。


「ひはっ、やめ…っ、くすぐった…!」
「…待て」
「へ?」



待てされてしまった。


「ひんっ、くぁ」



くすぐったい。
すごく。


「や、もうやめ…」
「君待てさえできないの?」


カチン。そんな音が脳内に響いた。
もう本気でこらえる。
くっそ見返してやらあ。



「よし、いいこ」


よっしゃあどうだたえきった!
すると次は頭を撫でられた。
うお、何これ気持ちいい。これは手慣れてる。というか私遊ばれてない?これ。
ぽわぽわとした頭で考える。
たしか女子は頭を撫でられるのに弱い人が多いとかなんとか聞いたことがある。
うん、確かにほわほわ〜って幸せな気分になるなぁ。
んーでも私もう20歳で成人してるんだけどなー。
なでなでって歳じゃないけどこれは…。




ねむくなるなー…。




「ぐう」
「…………………」


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