「きゃああぁぁっ!」

こんにちははじめまして。唐突ですが、私今バスジャックにあっております。
いつもなら「んぎゃあぁ」なんて女子力の欠片もない叫び声を上げるのに、バスジャック犯に刃物を向けられた瞬間、甲高い声が出たものだから、私も一応女なんだなと実感してしまう。
…そう。私は実に非力な女だ。
だからバスジャック犯に人質になどされるのだ。

「うるせぇ!」
「ひっ…!」

今の私は涙で顔はぐしゃぐしゃだ。
一応きもち程度にはしているメイクも、涙で滲んでしまい、今すぐ落としたい気分である。

バスを警察が囲んでいるが、私…人質がいるので行動に移せないようだ。
ひたすら交渉専門の警察官が犯人に呼びかけている。
当然だが、犯人はそれに聞く耳もたず、それどころか私の首にピトリとナイフを当てた。
冷たい感触が首に当たりカタカタと僅かに震える。

「っあ…」
「今すぐ逃走用の資金と車を手配しろ!さもなくばこの女を殺す!」



なんで。
何で私だけがこんな目に合わなきゃならないの。
バスに人は沢山居たじゃないか。
なのにどうして私が人質にならなきゃならないんだ。嫌だ、…死にたくない。

警察官が話し合っている。
こっちは…死にかけてるっていうのに悠長に話し合いなんて!と思わず苛立ってしまう。
いや、分かっているんだ。独断で決める事ができない事情があるんだって。
…私も、そんな子供なわけじゃないから。

でも、怖い。怖い。
はやく、はやくー…。


「おせぇんだよ!」
「ひっ…っ!」
バスジャック犯が振り回したナイフが私の1つに結ってある髪の毛に当たった。
バサリとゴムで結んである所から下が落ちる。
ちょ、これだけ伸ばすのどれだけ大変だったと!

内心毒づいていると、バスジャック犯が私の首にもう一度ナイフを当てた。
さっきより少し強く当てたそれは、横に軽くスライドするだけできっと切れてしまう。
場所的に頸動脈が切れるだろうから、その時点で私はお陀仏だ。


「ひっ、あ…」

言葉にならない声が私の喉からもれる。
カタカタと体は震え、ただただ目から涙がこぼれ落ちる。


「あと5秒でコイツ殺す」


びくん!と肩が揺れる。
いま、なん、てー…。

「や…だ…。やめ…」
「ごー」
「わた…」
「よーん」
「しにたくな…」
「さーん」
「おねが…」
「にーい」
「たすけ…」


「お前は、ここで死ぬために産まれてきたんだよ。じゃーね」

私はぎゅっと目を瞑った。







しにたくない!



「そんなに死にたくない?」

そんな声がした。

「…え」

恐る恐る目を開けると周りの人が、風景が止まっていた。

よっしゃこの隙に逃げよう!とか思っても、私も動けない。
唯一動けるのは、口だけ。


「ねぇ、死にたくないの?」

頷こうとしたが、動かないのでとりあえず、うんと返事をする。

「まぁ助けられないけどね」
「は!?助けてよ!」
「無茶言わないでよ、自分でなんとかしなよ」
「ムリムリ!私殺される寸前!」
「だからー…。ん、まぁ一度死んだ筈のその命、生きる為にかけてきたら?」
「え…」
「あ、向こうで死んでもオワリだからね?向こうで修行でもして簡単に死なないようになっておいでよ。もし成功したら僕をー…」
「ねぇちょっとなんの話…!よく聞こえな…!」
「じゃーいってらっしゃーい!」


その瞬間、ものすごい光が広がったものだから、あまりの眩しさに、私は意識を手放した。


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