「遅い」
遅くなりましたー!と叫びながら、国語準備室のドアを開くと、オクターブ低い声でそんなセリフを発されました。
…え、誰。
「何、より道してたの?」
因みに此処には私とマツバ先生以外居ない。
あれか!ブラックマツバ説は本当だったのか!
「えーっと…」
「まあいいよ、座ったら」
「え、どの椅子に…」
「床」
びっ、と床を指差したマツバさん。うわあああん!
「私マツバさんはホワイトだと信じていたのに…!」
「知るか」
「ごふっ!」
校内暴力、反対。
「とと、とにかく!なんで私呼ばれたんですか!?」
「あー、僕が呼んだのは…」
気だるそうに言葉を紡ぐ。
…ひでぇな。
「僕らをここに連れてきたのはアルセウス達なわけだけど…」
「へー」
「アルセウス達がそんな君だけが記憶を残るような単純なミス…よく考えたらするはずがないよねって」
「…はあ」
「だとしたら、君が何故僕らを覚えていたのか」
「ええー…、徹夜でポケモンやってたからじゃなく?」
正直、すごく眠いんですが。
昼休みは本当はずっと寝る気だったのに。
「だからさっき言っただろ。頭沸いてんのか。アルセウス達なら…それくらい本来修正出来るんじゃないかって話だろ」
「スミマセン」
「だからきっと…」
ごくり、と私の喉が鳴る。
…きっと?
「面白そうだったから、じゃないか」
「はあああー?」
「つまり、君はアルセウス達のオモチャってわけだ。だからわざわざ修正しなかった…。それか…」
「…?」
「修正が面倒だったから」
「…。」
面倒…ッスか。
「前者にしろ後者にしろ、当初の計画には君はイレギュラーなわけだ。…僕にとっては君は巻き込んだ罪悪感より邪魔者としての印象が大きい」
「…はあ、すんません。というかなんで邪魔なんですか」
「イレギュラーとは居なくていいもの…むしろ居てはいけないものだ。…僕が見えた未来に支障が出る」
未来…千里眼で見たって事?
きっとマツバ先生の千里眼は…千里先を見るとかだけでなく…様々なものが見えるんだろうから。
「し、支障って…?」
「…それはまだ言えないな」「…はあ」
ガッと頭を踏まれた。…痛い。
「授業も始まる。さっさと帰れ」
「…さいですか」
何様俺様マツバ様…。
そんなんだからホウオウをヒビキ君に取られるんだっつーの。
ビシィ、と音がした。
私の横の壁が…砕けた…音。
…え!?
「なんか言った?」
「言ってませんんん!」
ドス黒い笑顔を浮かべたマツバ先生を背に私はかつてない速度で廊下を走り抜けた。
それこそグリーンに追いかけられたよりも早く!
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