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「ちゃんと昼飯食えよー」

今日は休日で学校は休みだが、大会の近いこいつらにとってそんなことは関係ない。もちろんそれはコーチとして指導に明け暮れている俺も例外ではなく、こんな真夏のクソ暑い日によくやるなとタオルで汗を拭いながら半袖をさらに捲る。こりゃ数時間おきに休憩挟まねえと室内でも熱中症が心配だな。

「烏養君、何か買いに行きますか?」
「いや、今日は俺はいいや」
「駄目ですよ、烏養君もちゃんと食べないと」

わいわいと体育館を出て、外のベンチや扉の入り口で鞄を開けながら弁当箱の包みを出す面々に少しだけ溜息。‥こいつら本当に元気だなと。そうして俺はまた溜息を零す。‥実は今日、実家に泊まっていた彼女のナマエが弁当を作ってくれていたのに、学校に行く直前店の客に呼ばれたまま、弁当箱を忘れてしまったのだ。

「‥‥‥はー‥」

どうすっかなあ飯、と考えた所で思考は既に停止している。ぶっちゃけ近くの弁当屋に行くのも面倒だし、スポーツドリンクがあるからいいかなんて思っている所もある。しかし飯をちゃんと食えよと言っている身、ちゃんと食べないとまずいよな。‥ただ、折角作ってくれた弁当を置いて何かを買いに行くというのも‥‥気分的に嫌なのだ。

「‥烏養君、あの」
「あー?飯な、いや食うけどよ‥」
「そうじゃなくて、あの人知り合いですか?」
「は?」

なんの話だとばかりに先生が向いてる先へ首を動かすと、視界に映ったのは昨日から俺の実家に泊まりに来ているナマエだったのだ。‥いや、てか何故こんな所に。数秒間固まってやっと頭を働かせにかかると、慌てて彼女に駆け寄った。

「なにやってんだこんな所で!」
「お弁当忘れて行ったでしょ?届けに来たの」

もう、折角作ったのに。なんて、ぷくりと頬っぺたを膨らませる様子を見ると、そんなに怒っているわけではなさそうだ。つかなんだその格好。ここに短パンで来ていいとか思ってんのか!俺が指導してるのは男子バレー部だぞ!

「お前足出しすぎだろ」
「だって暑いんだもん。それより今休憩中?タイミングよかったね」
「いやまあそうだけどよ‥」
「「コーチ!!!!?」」
「うお!!」

どうにかしてその真っ白い足を隠せないかと汗を拭っていたタオルをさし出そうとした瞬間に、背後からの大きな声。まあ誰かなんていうのはもう分かってはいるが、お前らタイミングな。男子高校生のこいつらには、ナマエの生足なんて刺激が強すぎるだろ。‥なんて思ってる側から、既に西谷と田中の目はナマエに釘付けのようだ。

「コーチの彼女‥」
「手作り弁当すか‥?」
「「リア充!!!!」」
「うるせえな!!早く飯食え!!!」

ぎゃんぎゃんと煩い2名は黙ることがなく、澤村に押し付けようと姿を探したが、目が合った所で結局ニヤリとされてしまった。誰も助ける気ねえのか。

「‥はあ。弁当助かったわ」
「うん。じゃあ私戻るから」
「は?そんな格好のまま1人で帰すわけねえだろ」
「え?」
「終わるまで待ってろよ。一緒に帰ればいいだろ」

自分の隣に座らせて、少しだけ湿ったタオルを膝にかけてやると、飲みかけのスポーツドリンクを手渡した。先生を含めてニヤニヤされているのが手に取るように分かるが、そんなこと気にしてやるかよ。俺にだって彼女の1人くらいいてもいいだろーが。悔しかったらお前らも彼女作ってみろ!

「見てみろ、あのコーチの目を」
「見せびらかしてんな〜」
「手作り弁当とか愛されてるねコーチ」

おい、聞こえてんぞ。可笑しそうに話し込む3年を中心にギロリと睨んだ瞬間、そんな空気を何も気にしていないふわふわとした声は突然耳に入り込んだ。

「繋心の匂いだあ」
「‥‥あのな‥」

‥いやだから、足隠す為のタオルだっつーの。なんで汗の臭い嗅いでんだ変態か。‥あっちーな、くそ!

2017.07.21