▼▽▼


ねえこいつほんと馬鹿なの?口に出しても聞こえないだろうが、口にはしないでおいた。惚れた弱みはどうのこうのってやつだろう。僕はなんでこんな馬鹿みたいな奴好きになってしまったのか、些か疑問である。

「はあ‥」

ここは僕の家だし、言うなら僕の部屋だし。幼馴染ということもあって警戒なんてなにもしてないからミニスカートとか履いてくるんだろうけどさ。タイツ履いてるけど。そうして人のCDラックを漁りまくって、さっきまで僕のノートパソコンで聴いてたくせに、いつの間にかベッドの上でヘッドホンしたまま熟睡している。何度でもいうけど、こいつほんとに馬鹿なんじゃないかな。

「‥ナマエ、いつまで寝る気なの」

一応喋りかけたつもりだったが、案の定聞こえている訳はなく。ヘッドホンの奥からシャカシャカと響いてくるのは最近僕が買ったCDの中で1番気に入っている音で、それを耳にした瞬間やっぱり好み似てるなって思わず口角が上がってしまった。危ない危ない、こんなところをナマエにでも見られようものなら変な目で見られてしまう。

「‥ん、ぅ」

ぎしり。そっと腰掛けたベッドから鈍い音がして慌てたが、寝息はずっと聞こえている。パソコンを開いたまま、うつ伏せに寝てしまっているナマエの体制が苦しそうだから少し肩に触れただけだったが、色っぽい息の抜けた声に動揺した。なんなんだよコイツ、僕にどうしてほしいっていうんだ。

「ちょっと、ナマエ‥」

一応男だし、我慢は出来ても限界はくる。その限界がいつくるのか分からない現状に不安になって軽く揺さぶってみると、薄っすらと瞼が開きかけている様子にほっと息を吐いた。覚醒したら頭叩いてやろうか、なんて考えていると、いつも山口と同じくツッキーと呼んでいた声は、昔小さい頃に呼んでいた名前を呼んだ。

「‥けいぃ‥」
「は?」

いや、今蛍って言ったよね‥?中学に上がる前、突然ツッキーって呼び出したのはそっちの癖に、なんで今更蛍なんて呼ぶんだ。とろんと今だ眠そうに緩む瞳はぽやりとこちらを見ていて、文句を紡ぐ筈の僕の口は開いたまま動かない。‥どころか、煩いくらいに心臓はドキドキとしているのだ。多分、まだ夢心地なんだろうけど、‥もしかすると、小さい頃の夢でも見ているのだろうか。

「‥‥どうしたの、ナマエ」

イカれてる。分かってる。けれどもうしょうがないのだ。僕の座った膝にのろのろと頭を乗せて、何が嬉しいのかふふふと笑うナマエを見たら、押し込んでいた気持ちと我慢が限界だと叫ぶ心がぐわりと一緒になって、親指でナマエの唇に触れてしまった。まだ寝ぼけているような瞳を見ると、もうこのまま一緒にベッドへ沈んでしまってもいいのではないかという気にもなってくる。‥男なんて、そういう単純な奴なんでしょ。多分。

「そんな顔されたら襲うけど」
「んふ、ふふ」
「‥そんな嬉しそうにしないでくれる」
「けい、かわい」
「はあ?それを言うなら君の方が、」
「いつか、‥いうから‥‥まってて、ね‥」
「なに、が‥」

唇に触れていた親指を掴んで、僕から見ても分かるようにキスを残してまた夢の中へと戻っていった。なんだよ、これが夢だと思って安心したのか?いつもとは違って随分と大胆なことをしてくれるじゃないかと熱くなった顔を片手で隠す。

「起きたら覚えてろよ、この馬鹿‥」

まずは、起きたら最初に僕に何を言うつもりだったのかを問い質すことにしよう。そうして僕と同じ気持ちがナマエにもあったんだったら。その時はさっきまでの醜態と、こっちがどれだけ我慢したかを聞かせてあげる。

‥その前に、この顔が熱いの、早くどうにかなんないかな。絶対赤いでしょ、今。

2017.12.15