「トラもウサギもなんで誠凛に行ったの?」

色々あった練習試合も無事に終わり、ネットや支柱を片付けている最中だった。ウサギは海常のリベロをやっていた人に話しかけられていて、早くこっちに戻ってこないかなあと思っていたら突然にっこり笑顔で現れた如月先輩が私の肩を叩いたのだ。さっきは黄瀬涼太と付き合ってるの?とかぶっ飛んだ質問しやがって。誤解晴らすの大変なんだぞ、あんなでもファン多いんだから。

「誠凛に行ったら駄目でした?」
「だって2人とも実力あったし。強いとこからスカウトくらい来てたでしょ?」

反対側持つからそっち持ち上げてくれる?おいしょと後ろからおばさんみたいな声が聞こえてきて少し笑いながら支柱を持ち上げると、そのまま体育館の倉庫へと向かう。‥スカウトくらい来てたでしょ、かあ。うちの中学じゃスカウトが来るのなんて当たり前なんだろうな。

「それにトリが一緒じゃないとか意外」
「‥先輩、知らないんですか」
「何を?」

きょとんとした顔を見せた先輩は、首を傾げた後に指定の位置に支柱を置くように指示した後私の真正面に立った。正直話したくないなあ‥。でもトリのことを知ってる先輩には聞かれるだろうとも思っていたし、しょうがないか。奥で談笑しているウサギをちらりと視界に入れて小さく息を吐いた。

「トリ、3年の時全中の決勝で倒れたんです」
「は、」
「その後病院に搬送されてる最中に救急車が衝突事故に遭って、まだ入院中なんですよ」
「は!?」

綺麗な顔が驚きで歪んでいる。大きな声が出た瞬間に近くのチームメイトから「どうしたの?」と声をかけられていたが、焦った顔でなんでもない!だなんて説得力に欠けるのではないだろうか。如月先輩もウサギをちらりと見た後に大きな溜息を吐いて、顔を隠すかのように掌で覆った。

「嘘、‥ほんと?!」
「なんで嘘つかないといけないんですか‥」
「‥ウサギ、大丈夫なの?」
「まあ‥でもトリはまだ面会できるような状態じゃないし、会えないのは結構ショックなんじゃないですかね」
「そ、そんなに酷いの‥!?知らなかったんだけど!!」
「そりゃ先輩卒業して2年経ってましたから」

それよりも早く片付けないとキャプテンなのに怒られますよ。視界の奥で見える如月先輩の同期らしい人が怒ったような顔でこちらを見ている。決して私が足止めしたわけじゃないので怒るなら先輩だけでお願いしたい。その気持ちが通じたのか、ずかずか歩いてきたその人は「すみません、うちのが」なんて言いながらずるりと如月先輩を引っ張った。

「キャプテン、ミーティングしなきゃいけないし、誠凛さんを足止めさせないでくれる?迷惑かけるから早くして」
「怖いよ〜ごめんって〜‥‥!」

威厳があるんだかないんだか‥。そういえば私達もバスの送迎時間もうすぐじゃなかったっけ。館内の片付けはもう終わっていて、どうやらキャプテンと話していた私を待ってるようだった。‥やば、早く行かなきゃ!!

「トラ!ちょっと色々話し聞きたいからまた連絡するね!」

大きな声が聞こえてきて、私は分かりましたから!としっかり首を振った。色々話し聞きたいって、‥そんなに話したいこと私ないんだけど‥。

「向こうのキャプテンと何話してたの」
「黄瀬君の情報でも収集してたんですか」
「私も色々話し聞きたいから連絡してもらっていいですか」
「皆怖いんですけど!!」

ぽん、ぽん、ぽん。背後からの気配と掌につい慄いてしまうのは皆の顔が必死すぎるからだ。別に黄瀬涼太の話しなんかしてないから!その言葉を信じていたのはウサギくらいだったかもしれない。可哀想な目で私を見るな。

2018.01.16

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