もしかすると、蛍と一緒にいるのは過去1番と言えるくらい楽なのかもしれない。最初こそ生意気だとか、失礼とか、色々思う所はあったのだけれど、そこそこ空気は読んでくれるし暴言吐かなきゃ静かだし、食べている姿は結構可愛いしでも顔面はイケメン。電話もメールも無視しない。目の前でオススメしたとろ麦ご飯に、大人顔負けの上手な箸の使い方。素晴らしい教育を受けてきたんだろうなあ。‥口の聞き方だけはもう1回指導しなおしていただきたいが。

「蛍は部活楽しい?」
「なんですか藪から棒に」
「だって高校生って青春の塊じゃん?なのに部活やってるから、部活がそんなに楽しいのかなって」
「そういう怜奈さんこそどうだったんですか?」

私は部活なんてやってませんでしたよ。そう答えを返せばそうでしょうね、なんていつかも聞いた言葉が返ってきた。そうでしょうねってどういうことだ、青春をしていなさそうとかそういうことを言いたいのか?‥していないかもしれない。一理ある。

「高校の時からバンドばっかやってたから他のこと全然興味なかったんだよねえ」
「テストも赤点しか取ったことなさそうですしね」
「そんなことないから!」
「へえ〜」

全く信じていない顔をしてイヤミに笑った蛍は、副菜のおひたしに手をつけている。むかつく、蛍って頭も良さそうだから余計にむかつく!‥って、私の話はいいんだよ。いつまでもにやにやしているのが鬱陶しくて、私の話へと路線変更をしてきた蛍のささみフライを取り上げた。

「私の話しはいいんだってば!蛍の話しが聞きたいの!」
「僕の話しなんか聞いても面白くないですよ」
「面白いか面白くないかは私が決めることだと思います」

あ、きゅーって眉間の皺が寄った。問い詰められるのが嫌いなんだろうなあと思ったら、面白くなってもっと虐めてみたくなってくる不思議。そうしてじい、と蛍の目を見つめていると、観念したのかついとそっぽを向いてしまった。だってさあ、もっと知りたいんだよ、蛍のこと。学校でのこととか、部活の話しとか、あとはほら、恋バナとかさあ。きっと色々あるんでしょ?氷の入ったコップを揺らして溜息を吐いているくらいだ、悩みもたくさんあるはずだ!

「部活は、‥まあ、それなりに」
「蛍の性格からして"それなり"には"かなり"ってことでしょ!」
「一応強豪なんで、練習量もキツイですし」
「強豪なの?」
「‥全国行ってますし、一応」

そりゃ意外だ。それなりの所でそれなりの結果を出すようなイメージだけど、全国に行くほどの強豪だとは。‥何故全国という言葉だけで2倍くらいかっこよく見えてしまうのか。あ、いや元々イケメンなんだけど。怒っているのか照れ臭いのかよく分からない顔を浮かべるその姿は、やっぱりただの男子高校生でしかない。‥なんだ?なんか心のどっかが軋んだみたいにきゅんとした。

「じゃあ恋とかしてる暇なさそうだね。折角の青春なのに」
「‥してないなんて誰も言ってないですケドね」
「へ‥‥え!?蛍って好きな人いるの!?」
「うるさっ‥!!」

っていうか好きな人がいるのに私の誘いに乗っかってきていいのか、誘ったのは私だけれども!淡々としているが、もし今一緒に食事をしている所なんかを見られてしまったらどうするんだ。釈明の余地がないのではないか。そう思うとなんだかとても申し訳なくなって、慌てて水を飲み干した。‥そうして目の前の彼は、そんな私の行動を頗る面倒臭いという表情で見ていたのだ。いやいや、私にだって罪悪感はある!

「これだからバカは嫌いだ‥」

大きく溜息を吐いた蛍は、机に肩肘をついて窓の外を眺めていた。‥なに、誰に対してバカだって?どうせ今だって好きな人のこと考えてるんでしょ、分かってるんだから!そもそもバカはそっちだ!きゅんと騒めいた筈の心はいつの間にか静寂を取り戻している。針の先で刺されたみたいに痛かったけれど、それが何かなんて今の私には想像もつかなかった。

2018.02.09

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