ネコのお頭


三年間ずっと同じクラスだった鉄朗は、割と途切れることなく彼女がいた。綺麗系から可愛い系から、年上系から年下系まで。でも、その全員から告白されて付き合っては「部活ばっかり」という文句を最後に終わっている。その「部活ばっかり」がカッコイイんじゃない、と思う女の子が私以外にいないんじゃないか?と考えるくらい、鉄朗はよくモテるしそのせいでよく振られている。

「いやー今更だけど春高なんて凄いよねえ」
「そのおかげか最近またキャーキャー煩えのが増えたけどな」

近頃の鉄朗は、そういう風に毒吐きをすることが随分と多くなった。多分、もう懲り懲りなんだろう。部活丸ごと自分を好きになってくれればいいのにって思ってるけど、そんな人なんていないだろうしもう面倒臭いみたいな。春高に行くのは鉄朗の夢でもあったから、一緒になって喜んでくれない彼女なんて酷だと思う。

「観戦楽しみだなあ」
「お前だけだよそんなこと言ってくれる女子高生は‥」

お爺ちゃんみたいな口調で呟く鉄朗が、コンビニで買ってきた菓子パンを一つくれた。

年明けの体育館には、誰もまだ部活に来ていない。不可抗力とは言え、男子バレー部の主将と男子バレー部女子マネージャーの秘密の密会。それが嬉しいと思ってるのは、多分私だけだ。

「烏野との再戦まで絶対なんとか残んねえとな」
「余裕でしょ」
「お前の言葉はマジで重みが感じられません」
「だって分かり切ってることだもん。鉄朗率いる音駒が、簡単に負けるわけないし」
「なにそれ鉄朗超嬉しいんだけど‥」
「きも」
「オイ」

春高が終わったら、鉄朗達三年生も私も皆卒業だ。進学、就職でばらばらになる。それを考えると春高が終わってほしくなくて、どうしても今に縋り付きたいばっかりになってしまう。でも、彼等の試合は早く見たい。そんな矛盾ばかりが増えていく。

「春高終わったら卒業旅行とか行きてえな〜」
「あーいいね。夜久と海も誘って四人で行く?」
「は?」
「‥は?、とは」
「なんで夜っ久んと海出てくんだよ」
「三年生って意味でしょ?」
「いや野郎の中に苗字を入れれるわけねーし。つーかイヤダ」
「は!?酷くない!?」
「お前は俺と二人で行くの」

ぽこん。ぽん、ぽん。
両手でいじくり回していたバレーボールが床に落ちて、跳ねて、奥の方へと転がっていく。
なんで、鉄朗と二人で卒業旅行に。皆で行った方がお買い得じゃない?ほら、思い出三倍だし。‥みたいなことを頭の中では考えてたけど、開いた口は止まったまま塞がらなかった。

「な、なんで二人、」
「いーだろ。今まで頑張ってきた俺へのゴホウビってことでさあ」
「それ私歴代彼女達に刺されない?大丈夫?」
「そんときゃ俺が守ってやるって」

にか!と笑った鉄朗が、今までに見た胡散臭いそれとも違ってすっごく優しい顔をしている。こんな顔もするんだなあって思っていたら、なんだか急に恥ずかしくなってきた。

‥だって、なんか私が勘違いしそうだから。主将と女子マネージャーの関係から、なんか発展しちゃいそうだなって。

「まあでもとりあえず春高が先なんで浮かれないでくださいネ?」
「ばっ‥!浮かれてんのはそっちじゃん!」
「いやーどうだかねえ〜」

ぽんぽん、と頭を撫でられた手はびっくりするくらい大きくて安心する。背中越しに聞こえた犬岡の大きな声に逸早く反応した鉄朗が、「どこ行きたいか考えとけよ」って耳打ちして離れていく。その足取りはとても軽い。別に鉄朗と一緒なら都内でも都外でもどこでもいいんだけど。

‥っていうかやっぱりそっちの方が浮かれてるじゃんか!
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