今年の幼馴染は一味違う


寝正月って、なんてステキな響きだろう。
普段は部活ばっかりやってる分、四日間のお休みなんて最高だ。何をするでもなく、食べて寝て、食べて寝る。太るとかどうでもいい。どっちにしろ、部活が始まったら動かなきゃいけないんだから。


「お前、幼馴染の応答にくらい答えろっつーの」

‥って思ってたのに、幼馴染のこの男は私の母親に一つ断り、私にはなんの断りもなく私の部屋へずけずけと入ってくる。勘弁してよ。私はやっと去年買ってもらったマイ炬燵に包まれてたいんです。自分の部屋に炬燵って本当に最高すぎる。今まで対して使ってあげられなかった分、このタイミングでちゃんと使ってあげたいのだ。

「ねーもう勝手に部屋入ってこないでってば〜‥そして当たり前のように炬燵にも入ってこないで。この子小さいんだよ」
「うるせー。初詣行こうぜってメールしただろ。なんで無視すんの」
「寒いメンドイ動きたくない」
「それをメールしろって言ってんの」
「二個目」
「どんだけ面倒臭いんだよ!」

貴大はいっつもそう。何かと私を気にかけてくれている、らしい。イベント毎に声を掛けてくれるし、母親より母親みたいでたまに鬱陶しいなと思うこともしばしば。
ちなみに、今は割と鬱陶しい部類に入っている。

「初詣って人も多いし寒いし煩いしで最悪じゃん‥私は寝正月で自分の好きなことしてグダグダしてる方が好きなんだよ、知ってるでしょ?」
「んだよなまえの母さん着物の着せつけできるしちょっと期待してたのに‥」
「‥んん?」

なんだそりゃどういう意味だ?

いつもより随分と小さな声に反応した瞬間蜜柑の皮を剥いていた手を止めて、炬燵でぬくぬくし始めた貴大の顔を見てみた。
むっすり、むっくり、ぷん。
‥なに、その顔。ちょっと可愛いじゃん。

「なーに?私の着物見たかったの?へーえ」
「‥なまえ乳ないから絶対似合うと思う」
「貴大可愛いなとか思った私が馬鹿だった!表に出ろ!そして凍えろ!」
「痛ッ!ウソ!冗談だろーが!イッテーよ!」

貴様なんて炬燵を使える身分ではない。ばしんと数回引っ叩いてぐいぐいと押し出して、びしっとベランダを指差したのに、今度は私のブランケットを巻きつける始末だ。だから使っていいなんて言ってないっつーの!

「お前毎年着ねーじゃん?」
「あったりまえ。あんな苦しいの誰が好き好んで着るかね」
「去年は夏の浴衣着てたじゃん?」
「夏の浴衣は結構涼しいからいーの。苦しくないし」
「すげー似合うと思ったから、着物はさぞかし可愛いんだろうなと思ったんだよバーカ」

おや。今なんかすごい褒め称えるような声が聞こえたぞ。顔を見ようと思ったら、殆ど伏せられてしまって見えやしない。なに照れてんのよ、自分で言っておいて。そんなに私の着物をご所望でした?それって本当に乳関係ないんだよね?色んな疑問を浴びせた所でぐわしと掴まれた腕は強めで、つい身体が貴大の方に傾いた。

「‥着てくれませんかね。お前の母さん下で準備してくれてると思うし」
「なに二人で謀ってんのよ‥面倒臭いなあ‥」

もっこもこの暖かい寝巻きは、結局脱ぐことになってしまった。でも貴大に褒められるのは実際のところ、悪くはない。

私の腕を掴んだまま、貴大は階段を降りていく。浮き足立った足は随分と軽快そうだ。
ちょっぴり赤くなった彼の耳に、今は気付かないフリをした。
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