0時00分12秒



「部室に炬燵があったらいいと思わねえ?」

急に不躾な質問である。
私の部屋のこたつで暖を取りながらみかんを食べる孝支が、にへらと笑って首を傾げた。いや知らんけども。

私と孝支は、付き合い始めて半年経ったくらい。あの日は暑い暑い日だったけど、今は暖房がないと耐えられないくらい寒い寒い日だ。元旦ずっと一緒にいられないからってわざわざうちまで来なくてもいいのに。お母さんすごい吃驚してたんだよ、孝支だからお泊り許してくれてたけどさ。

「部室にこたつなんかあったら体育館なんていかなくなっちゃうでしょ」
「それがな、行くんだよ。バレー馬鹿ばっかりだから」
「ああ‥それもそうか‥」

私も机の上を片付けたところで孝支の隣に座った。既に温い彼は、暖めておいたとばかりに少しだけ場所を譲ってくれる。俺って豊臣秀吉みたいだろ?って笑う彼は、間違いなく豊臣秀吉ではなくて私の彼氏だ。


「‥春高、頑張ってね」

まだ言えてなかったこと。タイミングがなくて言えなかった。予選の時は私だけ少し早めの受験シーズンで、応援とか全く以って行けなかったし、孝支はその後から凄く忙しくなって中々会えなかったから。少しだけ間を置いて、孝支がみかんを全部飲み込んだところを見計らって口を開く。目がぱちくりと大きくなって、ふわ、と笑った口元がとても愛おしい。

「今回は応援来れるんだっけ?」
「うん。進学先決まったからもう大丈夫、気合い入れて応援行く!」
「まじか〜。お前の気合いは怖えな〜。『孝支』とか書いてる団扇とか持ってくんじゃねーべ?」
「なにそれめっちゃ恥ずいんですけど〜」

こうやって孝支と何気ないことを話してる時間が一番好き。バレーをしている孝支も輝いてて好きだけど、孝支の時間を独り占めしている、この瞬間が一番好き。
みかん食べる?って一個だけ掴むと、それよりもって腕を掴まれた。そのままぽふんと押したおされたら、ふわふわのカーペットの感触が背中に触れて、気持ち良い。


「‥孝支、」
「ちゅーしていい?」
「それ、思ってたんだけどなんでいっつも聞くの?」
「‥嫌がられたら傷付くから」
「嫌がる訳ないじゃん。相手が孝支だよ?」
「そっか。‥そうだよな」

ちょっぴり眉毛を垂れさせた孝支の顔が少しずつ近付いてくる。あんまり会えなかったこと、気にしてたのかな。気にしなくたって私は全部分かってるから大丈夫なのに。それに、そんな申し訳ない気持ちでちゅーなんてしてほしくない。好きだーって気持ちでちゅーしてほしいの。

「タイム!」
「うぶっ!」

唇が触れる手前で、私は孝支の両の頬っぺたを両手で押しつぶした。そのおかげで変な顔が目の前いっぱいに広がってつい笑ってしまう。
‥あ、すごい不満そうにしてる。なんかごめん。

「‥なんだべ‥やっぱ嫌なら早く言って‥」
「そんなネガティブちゅーなんていや」
「おいっ、旭と一緒にすんな」
「孝支がたくさん頑張ってるの知ってるから今は会えなくても全然苦じゃない。その代わりに、」
「‥?」
「卒業したら、いっぱい私の我儘聞いて」

ディズニーランドとか旅行とか観光とか、孝支と行きたい所がいっぱいあるんだから。つい先程まで不満そうだった孝支の顔は、豆鉄砲食らったみたいにぽかんとしてる。なにを言われると思ってたんだ、こいつめ。

「そんなの、当たり前だろ」

ふ、とおかしそうに笑った孝支は、今度こそと唇を押し付けてきた。ほら、その幸せそうな顔が好きなんだから、ずっと私の隣では笑っててほしいの。


「あ、明けましておめでとうの時間だ」
「‥これからもずっとよろしくな」


それはこちらの台詞ですとも。
何年経っても、孝支と一緒に年を迎えられますように。
back