神様っているのかもしれない



「どんだけ並ぶの‥」


普段滅多に行かない初詣に、親と一緒に参戦したその理由は一つ。澤村君にお守りを買う為だ。
‥なんだけど、どうやらここの神社は恋が叶うというジンクスが大変有名らしく、購買の長い列が目の前に連なっていた。
これちゃんと買えるのいつ?寒くて敵わないんですけど。

「‥あんたこの列に本気で並ぶつもりなの?」
「並ぶ‥つもりです‥」

私の答えた言葉に親は少々呆れたらしい。寒い中お疲れ様ね、なんて言い終わったあと、お母さんとお父さんは先に帰ってるからと二千円を私に手渡し、さっさと我が家の方面へと足を向けてしまった。

ああ、全くこんなことになるのなんて分かってた癖に私も馬鹿だなあと思わざるを得ない。だけどどうしてもあげたかったんだもん、春高で勝ち越していけるように、必勝祈願のお守り。多分受験用のものしかないのだろうけど。

澤村君とは、高校に入学してからずっと仲良くしてきたつもりである。真面目でとても良い人で、怒ると怖かったりするけど基本的に温厚。バレーやってる時は、背中がぞくぞくする程かっこいい。四六時中ずっとバレーのこと考えてるような人だから、当然私が澤村君のことを好きだなんて微塵も気付いちゃいないだろう。


「も〜‥寒い‥」

人の列はまだまだ長い。あと三、四十くらいを耐えれば買うことができるだろうけど、なんにせよこの寒さなのだ。もっとちゃんと防寒してくればよかったとか、イヤホンとか持ってくれば凌げたとか、今となっては考えてもしょうがないことをずっと思っていたりする。そんなことを考える癖に、買うのをやめるという選択肢がない辺り、私は相当に澤村君のことが好きなんだなあと少しだけ頬が綻んでしまった。


「‥あれ?」


ハーハーと両手を息で暖めていると、ふと近くで疑問符を浮かべたような声がした。財布でも忘れたのか。そうだとしたら可哀想である。この列から離れて、また並び直さないといけないのだから。そんなことになったら私はどうするか、なんてしょうもないことをぐるぐる考えていると、ぽんぽん、と肩を叩かれた。

え、私?

そう思って右に振り向いてみると、右の頬っぺたに何かが刺さる。「やーい引っかかった」ってとっても嬉しそうな声は、去年澤村君の隣でもよく聞いた声だ。

「菅原君じゃんなにやってんの‥」
「俺は必勝祈願のお祈り来てんの。そっちこそ何やってんだよ〜」
「一人で?寂しい奴め」
「人のこと言えねーだろが。つーか一人じゃねえべ。大地達も一緒」
「えっ」
「おーい菅原、急に‥おお、なんだお前も来てたのか!明けましておめでとう」
「えああっ明けましておめでとうございます!」

年が明けてすぐにこんなことがあるとは。頭の中を澤村君でいっぱいにさせていたら、本物の澤村君と会えるなんて。ラッキーだと思いつつ、一緒に来ていたらしい違うクラスの他二人にもご挨拶。確か男子バレー部の東峰君と、マネージャーの清水さんだ。いいなあ、必勝祈願って三年生全員で来てたのかな。

「苗字は受験のお守りでも買いにきたのか?」
「ま、まあそんな感じ‥」
「俺も欲しいのあるから買ってくるかな」
「だ!だったら一緒に買ってくるよ、今から並ぶの大変だし!」
「いや、でも‥じゃあ話し相手になるよ。この行列じゃ暇だろ。寒そうだし手袋も貸す」
「えっ」
「悪い、一旦別行動してもいいか?」
「ヒュ〜大地ぃぶっ!「分かった」清水サン‥」

そんな簡単に快諾していいのか。困惑と焦りを他所に、澤村君以外の三人はそのまま離れていく。‥ちょっと待って。私澤村君に内緒で買おうとしてたものが。

「それあったかいだろ?さっきまで俺がつけてたから変な匂いしたらごめんな」

そんなことない、と首をぶんぶん横に振った。さっきまで寒かった顔が異常に暑い。

お守り、どうやって買おう。そんなことを考えているその隣で、まさか澤村君も私と似たようなことを考えていただなんて、この時の私には知る由も無い。
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