つかず、離れず、


幼馴染ってほんとに素晴らしいポジションだ。学校にいなくたってお家に行けば相手のお母さんは快く家に迎え入れてくれるし、お菓子やご飯を出してくれる。幼馴染に会い放題なのに、それを変に思われることだってない。

だって、幼馴染なんだもん。

「力、私もきつねそば食べたい」
「お前なあ‥ジャンケンして勝ったから鴨そば取ったんじゃないの?」
「そうなんだけど、お願い、ね?お願い!」

力はしょうがないなと言いながら、渋々私の前に自分のきつねそばを置いてくれた。年が明けてから数秒のことで力も「またか」って顔をしたけど、優しい彼のことだからあげないっていう意地悪な選択肢は絶対にない。

「きつねもおいしー」
「鴨も美味いよな」

力の家は、家族揃って年を越す。対して私の家では、お母さんもお父さんも病院勤務で夜勤が多く、揃って年を越すなんてことは滅多にない。でも寂しくはない。だって、力のお父さんもお母さんも、もちろん力もいるからだ。

「なまえちゃん、きつねならまだあるけど明日持って帰る?用意しとこうか?」
「だ!大丈夫です!」
「なまえは俺が食べてると半分食べたくなる病気だもんな」
「病気じゃないから!」

力のお母さんがカップ麺の入った箱をがさがさしていると思ったらそういうことか。なんか食い意地張ってる女の子みたいに思われているけどそうじゃなくて、私は力が食べてるから欲しかっただけでなんだよ。力と間接キスがしたかっただけ。
‥でもそれをこんなところで言うわけにもいかないから怒ることで誤魔化した。

「力、ちゃんとお布団用意してあげなさいね。持っていってあるから」
「大丈夫、ありがとう」

力の部屋に難なく泊まることができるのも、幼馴染の特権だ。私だから特別に許してくれること。専用の布団は力が用意してくれるらしいことに心が躍る。‥でも、本音としては、力と同じ布団でも全然いいのになあとか思ったり、思わなかったり。



「ふわあ‥」


一時間程度が過ぎた頃には、力のお父さんとお母さんは眠いからと自室へ戻っていた。居間に私と力と二人だけ。テレビからは、年末年始にかけてのお笑い番組がずっと流れている。たまに漏れる笑い声は、私も力も大体同じタイミングだった。

「‥どうする?そろそろ寝る?」
「んん‥でもなあ‥折角力と一緒にいれるのに寝るのってなんか勿体無いよねえ‥」
「なんだそれ‥」

段々と重くなってくる瞼。これが夢なのか現実なのか少しずつ分からなくなってくる。目の前に力、そして暖かい部屋。普段は部活で忙しい力を、独り占めできる環境。幸せで幸せで、寝るのがとても名残惜しい。

「こら、ここで寝るなよ。俺が母さんに怒られるだろ」
「力、今年もよろしくね‥」
「はいはい、こちらこそ」

ほら、部屋行くぞーって無理矢理叩き起こされて、体がぐらついた。ぼすんと何かに乗っかって、なんだかとても良い気分である。

「動くなよー。動くと落ちるぞ」
「はあい‥」
「ちょ、言ってる側からなまえって、」
「ふふふ」

無意識に両腕を伸ばして、落ちないようにと何かに巻きついた。あ、もしかしてここは力の背中かもしれないと思ったら顔がついにやついてしまう。つまり今、力におんぶされてるんだろう。

「全く‥そんなんだからなあ‥」

力のぼやきに反応することができなかったけど、まあいいや。好きな人の一番近くにいることができるなんて、年始からとても最高な日だ。
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