今年は大吉!



「こんなんどこにもいけへんやん‥」


今年の元旦は、吃驚するほど雪が積もった。朝起きて、さあ準備して初詣!と思ったら、窓から見える雪の山に愕然。ついでにたくさんの明けましておめでとうラインの中に紛れた「今日の初詣の集まり雪ヒドイから無しな」っていう内容に愕然。
どうしてくれる、新年早々治君と過ごせる時間が台無しになったやないか。他にも友達がおる予定やったけども。

予定がなくなってしまったのでお母さんが用意してくれた雑煮を食べに下へ降りると、アンタもう出る時間ちゃうの?なんて言葉が心に刺さって痛い。外見て外。私がまだ部屋にいた理由が分かるやろ。

「予定なくなったんやったら部屋の片付けでもしいや」
「そんな気力なんかあるわけないやろ!もー今日は寝て過ごすから構わんといて」
「寝正月なんてお母さん許さんよ‥?」

げえ。お玉を持って笑ってるってことは、結構ガチで怒ってるかもしれん。じゃあ自分の部屋の掃除しまーすってお雑煮を平らげて、蜜柑を二つ、御節もお腹の中に放り込んだ。治君にも会えないし、ブタになってもええもん。ダイエットは明日からしますう。

そんなことをぼやぼや考えていると、パーカーのポケットに忍ばせていたスマホがぶぶぶと震えた。食事中にスマホなんて開いたら、厳しいお母さんからスマホを没収されてしまうので慌てて席を立って、廊下で通話ボタンを押す。‥って、誰からか確認してなかったわ。

『明けましておめでとう』
「ごめーん、画面確認してなかったんだけど誰ですかー?」
『治やけど』
「あー治君?‥‥治君!?え!?なんで!?」
『なんでて‥今日初詣会なくなったから電話してみたんやけど、今なにやっとんの』
「え、えー‥」

パジャマのままお雑煮を食べて蜜柑を食べて御節も食べてました。‥なんて言えない。可愛くないにも程がある。だけど、まだ起きたばかりで楽しみもなくなった頭の中では良い言い訳みたいなものも考えることができなかった。

「そ、そういう治君は?」
『雑煮食って御節食って蜜柑食っとった』
「え、同じ、」
『同じなん?よう食うな、自分』

しまった!と思っても後の祭り。治君の頭の中で、私は多分「よく食う女子」という認識にされてしまったような気がする。‥だってやることないやん、予定もなくなったし‥っていう言い訳を口にすると、電話越しで治君が笑った。

『ほんならどうせ暇やろ、今日』
「え?うん‥まあ予定なくなったし‥」
『オカンから御節ビュッフェのチケット二枚貰ったんやけど一緒に行かへん?』
「おせ‥御節ビュッフェ‥?なにそれ‥?」
『家どこ?今から迎えにいくわ』
「えっ!」

化粧もおめかしもしていないのに、治くんは突然私に電話を寄越し、今から突然迎えに来ると言う。

いや待って。嬉しいけど、めちゃくちゃ嬉しいけど、さすがに急すぎん?!

慌てて階段を駆け上がって自分の部屋の扉を開けると、決めていた服をひっ掴んだ。‥でもそれより、一つ、気になることが。

「てか、あの、侑君と行かへんの?」
『誰が好き好んでツムなんかと行くねん』
「ほんならなんで私、」
『まあそれが知りたいんやったら会うた時のお楽しみってことでええんちゃう?』

電話の向こうで、多分にやにやした声がした。
なにそれ、なにそれ。すごく気になる。

『あとでラインに住所送っといて』

雪積もってるのにどうやってくるつもりなんやろうとか、そんなことを考えるのは取り敢えずやめだ。期待で膨らむ胸をなんとか押し留めて、「おかーさん!私やっぱ出掛けてくるから片付けできひんわ!」って言ったら「はあ!?」って返ってきた。

だって片付けなんかよりもっと大事な用事ができたんやし、しょーがないやん?
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