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「日曜の休みはちょっとな〜。しかも来週でしょ?そりゃ苗字さん無断欠勤も遅刻もないから希望は叶えてあげたいけど‥」

ですよね〜。うん、知ってた知ってた。

昨日、あさ‥東峰さん ( 昨日のネット注文の時に名前全部確認してしまった ) が試合に誘ってくれたので、ダメ元で店長にシフトを休みにしてもらえるか頼んではみたけれど、やはりというか、来週の日曜日なんて動かせる訳もなかった。諦めるのは良くないが、仕事を二の次にできるわけもなく、私は泣く泣く諦めるしかなさそうである。たくさんのスタイリングブック、人気雑誌数冊、売り上げの数値冊子。日曜のお休みが貰えないことも確定したことでさらに腕の中の資料が重くなった気すらするが、そんなことは言ってられない。


「あ!苗字さん!」

失礼しました、とげんなりしながら店長室を出てすぐ、アルバイトの男の子が爽やか笑顔で私の方を見た。彼は1年目ながらも殆どの業務もこなすことが出来る、主婦層からも人気なこの子は私の3つ下だ。出勤時間が朝からの私と夕方からであるその男の子は顔を合わせる時間も少ないのだが、何故だか入社当初からとても懐かれているらしい。でもそれは、仕事をする上でとても有難いことである。誰だって仕事をする際の人間関係は良いものでありたいのだ。

「おー、本田君じゃん、なんかすごい久しぶりだね」
「就活始まっちゃったんで、先々週からシフト全然入れてなかったんすよ‥」
「そうなんだ。大変そうだね‥就職どこでするの?」
「俺こっちでしようと思って」

へえ〜。‥と、言ってみてふと首を傾げた。確か本田君、地元はこっちではないと言ってたような‥?とはいえそこまで詳しく聞くのもなあと思ったので、そのまま「頑張ってね!」と一言声をかけて、社用のiPadに手をかけた。

「ちょっ、苗字さん反応薄くないですか!」
「え?そう?」
「もっと喜んでくださいよ、なんか切ないっす!」
「じゃあここに就職しちゃえばよかったじゃん。そしたら私良い反応してたと思うよ」
「あ、いや、それはまたちょっと違うっていうか‥」
「あはは、ごめんごめん冗談だよ」

今のご時世、サービス業はどこに行っても人員難だ。そしてそれを、本田君も分かりきっている。でも服屋は彼のやりたいことではないことも知ってる。ちょっといじめただけ。だから、ナチュラルにここへの就職を否定されたことについてもショックは受けないし、それはしょうがないことだった。きついしね。

すいすいとiPadを操作しながら笑っていると、売り場から少し息を乱した主婦さんが現れて、レジフォローお願いします!と随分焦りながら走りこんできた。どうやらまた売り場の接客にスタッフが時間を取られているらしい。嬉しいことだが、毎日毎日人が居なさすぎて溜息が出る。

「了解、行きますね、」
「あ、いっすよ、俺行きます!」

爽やか笑顔を飛ばして、本田君は颯爽と休憩室から出て行こうと名札を付けている。普段はワンコみたいな彼だが、売り場に出ると途端に頼もしい。レジも、試着室の案内も、商品知識も、ついでにパンツの裾も問題なく縫えてしまうのだ。そんな子があと1年、2年の間にいなくなってしまうことを考えると、また惜しい人材を無くすのかと落胆せざるを得ない。

「ありがと」
「うっす!」

さて、レジフォローも本田君が代わってくれたことだし、私は私の仕事をしよう。取り敢えず先週の売れと、最新のトレンドとスタイリングと、ディスプレイの展開を考えなければ。

「あっ苗字さん」
「なに?忘れ物?」
「そのスリットのパンツ、超似合ってます!」

何かを思い出したように休憩室へ顔だけ覗かせて、私の履いているオフホワイトのスリットレギンスパンツを指差したと思ったら、めちゃくちゃ良い笑顔で言い逃げして行った本田君。うわあ‥彼きっと大学でもモッテモテだろうなあ‥しかも、嫌味も全く感じないものだから、余計にこっちの気分が上がる。そうしてレジフォローを呼びに来た主婦さんが目をハートにしているのだから、本当に小悪魔だとしか思えない。

「今の子って素直なのね〜‥私がなまえちゃんだったら本田君に恋に落ちてるわよ」
「私もあと4、5歳若かったら恋してましたね〜‥残念だなあ‥」

って、そんな余裕こいてたら駄目だ。残業コースには絶対したくない。今日は早く仕事を終わらせて、1人で飲みにでも行きたい気分なのだ。今週は公休がずれているから、明日が休み。そして6連勤。だから、今日はいつもよりたくさん飲んでも明日はゆっくりできるということ。それで、日曜の試合を観に行けない鬱憤を晴らすのである。

2019.04.25




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