order made!

T-shirt





まだ20歳そこそこしか生きていないが、それなりにお店のことは任せられているのは自覚済み。‥だけど、人がいないからって毎日毎日こき使われていれば愚痴も不満も積もるものだ。

というわけで、そんな愚痴や不満を発散させようと、週に二回あるお休みの一回を使って、今日は高校から付き合いのある仲の良い友人と飲みに行く約束をしている。お店のブランドではない、ラフなオーバーサイズの白Tシャツに、ウエストマークのついたペールトーンのプリーツマキシスカートを履いて、「今日は仕事じゃない」という雰囲気を纏わせるのが自分の休みには必要なことだった。じゃないと気持ちが切り替えられなくてとてもじゃないがやっていけない。
仕事は好きだけど。好きだけど、それとこれとは別!

「バレーの試合見に行こうーなんて珍しいこと言うと思ったらそういうこと?」

待ち合わせより随分早い時間を指定され、疑問に思いながらも向かった先。友人のナギが、飲みに行く前にと私を連れてきた場所は、熱気溢れる近所の大きな体育館だった。折角お洒落してきたっていうのに体育館とは、と思ったが、普段しないピアスや色の付いたリップグロスをしているところを見ると、どうやら最近良く聞いていた好きな人とやらが所属しているチームだということが判明した。色恋の多いナギの今度の好きな人っていうのが、男前過ぎるほど男前らしい。他に説明はなかったのだろうかとは思うが、気にしないでおこう。

「なまえ的には今日の私のコーデどう!?」
「いいんじゃない?」
「ちょっと、ちゃんと見なさいよ?今日は私の重大な日なの。連絡先もやっっとゲットして、今度はご飯でもって誘いたいんだから!」
「そんなに言うんだったらその気合い入れすぎた真っ白なギャザーワンピよりも白いTワンピにレギンスにウエストバックの方がTPOには合ってるんじゃないでしょうか」
「それ今言う?」
「だから言いたくなかったんですけど」

正面玄関から入ると、応援に来ていた人達と選手達とでごった返していた。あんまり人混みは好きじゃなくて、きょろきょろと好きな人を探しているらしいナギから少し離れて壁に寄り掛かる。こんなに人多いと疲れちゃう。むしろ、地元のチームなのに随分人気があるんだなあ。

「い!いた!ちょっ、なまえ早く!」
「一人で行ってきなよ。私こっちで休んでるから楽しんでおいで」
「わ、わかった‥!」

おや、素直である。そうしてその彼目指して人を掻き分けていくナギを見送って、隣に設置された自販機に目を向ける。なんか喉乾いてきた。人が多いから、余計に水分取られちゃうんだろうな。ぼんやりそんなことを考えながら財布から100円を取り出すと、チャリンと入れて、お水のボタンを押した。

バレーボールなんて、ルールそんなに分かんない。中学校の授業と高校の授業でなんとか形に出来たくらいだったし、レシーブすると腕に赤い斑点できて痛いし、ボール取ろうとしたら滑って膝擦りむいちゃうし、あんまり良い思い出はない。ナギも確か運動とか苦手だったような気がするし、こんな所まで来ることも今までだったら絶対なかっただろうから、恋って凄いんだな‥。

「なまえ、なまえ、紹介するね、西谷夕君!」
「へ?」

あれ、おかしいな。私は「一人で行ってきなよ」と言った気がするのに、わざわざお目当ての彼を連れてきたナギは、ご丁寧に私にも紹介してくれた。

なんだか大変申し訳ないが、ナギの付き合ってきた今までの彼氏とか、今までの好きな人の中では随分とイメージが違った人である。ナギと同じくらいの背丈で、いやまあ顔は良いのだが、なんというかこう、随分賑やかそうな感じの人。「西谷夕です!よろしく!」と片手を差し出してくるくらいには、人見知りには皆無なのだろう。私は人見知りなんだけど。

「あ‥えっと、苗字なまえです、初めまして‥」
「おう!ナギさんもなまえさんも今日は来てくれてありがとうございます!めっちゃ嬉しいです!」
「え‥、え?あ、なんで敬語‥?」
「夕君、一個下なの」

いきなり名前で呼ばれたことに吃驚していたら、今度は年下だということにも吃驚した。だってナギ、あんた年上好きだったじゃん!‥とは、口が裂けても言えないけど、当の本人と言えば随分デレッデレになっているのだから全然気にしていないらしい。

「おーい西谷、そろそろ整列だぞー」
「旭さん!あ!丁度良いんで俺も旭さん紹介します!」

丁度良いって一体何が丁度良いのか全然分かんないし、だから私結構人見知りがですね、って声を掛けようとした所で目をひん剥いてしまった。西谷君が来い来いと手招く向こうから、なんだか見たことのある姿が目に映ってしまったのだ。パンツの裾上げの時間を過ぎてしまった人で、しかもねぎとろのおにぎり譲ってくれた人が、黒いユニフォームをきて、なんかヘアバンドしてる。

「え?‥あれ、店員さん、?」

えー?ぐうぜーん!
‥なんてこれ言えちゃったら、私めちゃくちゃ凄くない?無理だけど。

2019.03.25




BACK