order made!

american sleeve





ナギと西谷さんをジェットコースターの列まで見届けて、わたしは東峰さんと二人で近くのチュロス売り場まで来ていた。その近くには小さな子供達が着ぐるみのキャラクターを中心に集まっていて、とても賑やかだ。

「苗字さん何にします?」
「シナモンシュガーかプレーンか‥」
「‥じゃあ俺シナモンシュガーにしようかな。苗字さんプレーンにして半分こしません?」

メニュー表を見ながら悩んでいると、東峰さんの口から「半分こ」というワードが飛び出してきて「くふっ」と変な声が出てしまった。さっきから本当に可愛いんだけど、ジェットコースターが苦手な感じとか、半分ことか。いや元々可愛いなって思ってはいたけど、こうやって一緒に遊びに出かけてみて余計に感じる。わたしが笑っていることに首を傾げて「大丈夫?」って聞いてくるところも、全部心臓を鷲掴みにしてちっとも東峰さんが頭の中から離れてくれない。

「俺変なこと言いました‥?」
「違います違います、や、‥もーほんと、東峰さん可愛いからつい顔が綻んじゃって‥」
「褒めてられてない‥」
「わたしは褒めてますよ!」

わたし達の順番がきて、ちょっぴり不服そうな顔をしながら東峰さんがチュロスの注文をしてくれた。シナモンシュガーとプレーンを一つずつ。鞄からお財布を取り出していると、先程までの可愛い東峰さんはどこへやら、ポケットからスマホを取り出した彼は、スマートにそのまま電子マネーでお会計を済ませてしまった。え、と呆けている間にささっと二本分のチュロスを受け取り、人混みを抜けたところで「どうぞ」とプレーンの方をわたしへ差し出してくる。

「あ、ありがとうございます、ちょっと待って、先にお金、」
「いいですよ」
「ダメです!」
「お礼なので」
「なんの!?」
「苗字さん、俺がジェットコースター苦手なの分かってましたよね。だから」

空きのベンチを見つけて腰掛けると、お金を受け取ってくれなかった東峰さんが申し訳なさそうに笑っていた。チュロス食べたかったの満更嘘でもなかったんだけど、ちょっとだけ気を回そうとしていたことに気付いていたのか。もしかしたら自分が思っていたよりもずっと余計なことをしたのかもしれないと不安になったが、そうではないらしい。

「い、いいんですよ!それに実はナギも苦手なんです。でも西谷さんが乗りたいから自分も乗りたい!って噴気してたっぽくて」
「え、そうなんですか?」
「わたしも吃驚してます、今まで誘っても絶対乗らなかったから、ジェットコースターなんてものともしないくらい相当西谷さんのこと好きなんだな〜と」
「え!そうなんですか!?」
「え」

そんなに大きい声出る?ってぐらい吃驚した東峰さんにわたしも吃驚だ。あ、ていうかこれ言っていいんだっけダメなんだっけ?と考えたところで時既に遅し。ごめんナギ。心の中で手を合わせながら謝っていると、少し悩むような彼の顔に大きめのチュロスがそのまま喉の奥へと落ちていく。

「そうかあ」
「‥もしかして西谷さんって誰か好きな人います?」
「いや、‥うーん、‥どうですかね‥?」

それわたしに質問されてもな‥?煮え切らない答えに少しだけモヤモヤする。まあナギのことだから、他に好きな人がいようがいなかろうが頑張るのだろう。友人の為とは言え深く追求することもできず、チュロスを食べながらキャーと大きな悲鳴が響くジェットコースターに視線を映した。あれに二人は無事乗っているのだろうか。‥むしろナギは無事に乗れているのだろうか。









「ちょっとナギ大丈夫?」
「うおえ‥」

案の定ジェットコースターから戻ってきたナギは、なんとか笑顔で踏ん張っていたもののダメなものはダメだったようだ。お手洗いに行くフリをして、くらくらしている頭を落ち着かせようとしている。にしても西谷さんのあのキラッキラした笑顔とはまた対照的だったな‥。でもあの場でなんとか笑顔を保っていたナギを褒めてあげたい。あんたはスゴイ。

「久しぶりに乗った‥わたし頑張った‥夕君超楽しそうだった‥あの笑顔と苦しみは天秤にかけても夕君が勝つよ‥頑張ってよかった‥」
「ああそう‥お疲れ‥」

まるで遺言みたいに聞こえてくるがそうは言ってられない。今日はまだ始まったばかりなのだ。取り敢えず彼等にはどこかお昼ご飯の席を確保できるお店を探してもらっておこうという内容のラインを送信しておいたので、そのうち返ってくるだろう。

「‥で、そっちはどうなの」
「え?ああ、チュロス美味しかったよ」
「そーじゃなくて。東峰さんと知り合いだったみたいだし、なんか進展あったかなーと」
「や、特になしですが」
「面白くないな!おえ‥」
「あーもういいから静かにして!」

わたしが東峰さんのことを好きってこと、まだ本田君しか知らない。ナギに言ってもいいかなと思ったけど、この気持ちはまだバレないうちだけ自分の中で秘めておきたい。そのうち話そうかとは考えているけど、‥恥ずかしい以上に、大切な宝物みたいにしたい気持ちの方が、今はずっと強い。

2020.08.01




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