order made!

feather cardigan





ふと気付いたら、もう夜の21時を過ぎたところだった。どうやら文字通り死んだように眠っていたらしいが、今日はしょうがないと割り切っている。なにせ約2週間も働きっ放しだったのだ。枕に突っ伏したままでよく窒息しなかったな。そう思いながらふらつく体で台所に近付いていく。頭をスッキリさせる珈琲と、帰ってきた時に買ってきたお味噌汁を食べる用のお湯を沸かす為だ。

思い出したように鳴り出したお腹も喉の渇きも、起きてすぐ全部きた。おにぎりだけでは足りないだろう。だけど、何かを作ろうという気持ちの余裕はない。出前を取ろうかと思ったが、下手に注文して普通にコンビニで買って食べるよりも高いお金を払うのはなんだか癪だ。‥と思いながらも鞄の中のスマホに手が伸びる辺り、わたしは出来た人間ではないらしい。食欲と面倒臭さに忠実である。

ベッドからソファへと移動して、上下お揃いの下着のまま上から柔らかいフェザーカーディガンに袖を通す。服は大好きだけど、服を脱いでお気に入りの柔らかい部屋着に着替えるのも大好き。緊張感ゼロになれる自分の部屋は、どんな格好をしてどんなにだらだらしてもいいから最高だなと思う。さて出前だ、とスマホのホーム画面を開いたところでラインメッセージが1、2、3、4通。そのうち2通は仕事の人からのお詫びと「しっかり休んでね」というもの。そしてもう2通は東峰さんからの「大丈夫ですか?」と、きゅるんとしたウサギのラインスタンプだった。

「ぶ、ふっ‥チョイス‥」

東峰さんはかなり可愛いスタンプをよく使っている。このウサギのラインスタンプだったり、パンダの顔のやつだったり、人気モンスターのゆるいイラストだったり。思わず笑ってしまっているが、そんなのは今日に限ったことではなかった。

大丈夫ですよ。朝は心配かけてしまってすみませんでした!‥のあとに、ごめんなさいのスタンプを押す。数分後に既読がついて、そして割とすぐに返ってきた。私も同じように既読を付けて返す。そうやって会話をしていると、いつの間にか出前を取るのも忘れて東峰さんとのラインに夢中になってしまう。どうしようかな、もう家でご飯済ませちゃおうかな。スマホを持ったまま冷蔵庫を開けて中身を確認していると、今度は聞き慣れた着信音が部屋に響いてきた。どうやら電話がかかってきたらしい。誰からだろう、もしかして東峰さんかな、と期待をした。

『苗字さん生きてます?』
「‥本田君かーーー」
『なんすかそれどういう反応すか』
「いやごめんこっちの話‥」

期待は見事に裏切られ、口から出たのは本音だったがすぐに誤魔化した。電話をかけてきたのは、仕事先でアルバイトをしている本田君だったのだ。いやタイミングだよね、そうそうタイミング。こう、今の状況でなければ私も「おーどうかしたー?」くらいの反応をしていたけれど、丁度今東峰さんとお話ししてたんだししょうがないじゃないか。

『今日出勤ってなってたんですけどいなかったんで、他の人に聞いたら連勤で帰ったって』
「そー。12連勤だったの。流石に帰っていいって言われたら帰るよ」
『12!?超ヤバイじゃないすか!大丈夫っすか?』
「丸1日寝てた」
『‥それ飯食べました?』
「まだだよ。家で作るか出前取るか迷っててねえ‥」
『出前取るなら2人でどっか食べに行きましょうよ』

電話越しに聞こえた声に、私はうーんと唸る。いや別に本田君と2人が嫌とかいう訳じゃない。そうじゃないけど、‥うーん。なんて言えばいいか分からないがとにかく気が乗らなかった。多分これが東峰さんだったならば2つ返事だったんだろうけど。

『駄目すか』
「やー、駄目というか、もう化粧とか取っちゃったしまたするの面倒だなって」
『すっぴんでも気にしませんって』
「絶対嫌に決まってるでしょ」
『偶にはいいじゃないですか‥』

珍しく引かない、というか、引く気がない。そんな様子を声だけで感じる。なにか相談でもあるのだろうかと思ったけれど、そういえば彼が私に好意を持っているような雰囲気だったのを思い出してどき、っとした。いや、どき、というよりはなんというか、びく、とかぎく、とか、そんな感じだ。拗ねたような音を出されて、おいそれと「しょうがないなあ」とも言えないので、また今度皆で行こうよと努めて明るく言ってみたら、結構マジなトーンが返ってきた。

『皆と一緒じゃ意味ないです』

マジか。これ私の勘違いじゃないじゃん。おおよそ100%の確率で。そんな合間にも東峰さんからラインが返ってくる音が聞こえている。2人きりがいいだなんて私じゃなきゃ殺し文句だろう。あー、東峰さんとのラインの邪魔しないでほしい。‥そう思うのは、私の心に余裕がないせいだ。いや違う。東峰さんに、恋をしているせいだ、と、‥思う。

2019.10.10




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