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「甘すぎる」

ぐうの音も出ません。すみません。別に私はパティシエではないし、シェフでもないし、至って普通の高校3年生なんですけども。目の前で調理実習のチーズタルトを食べている、同じクラスメイトの赤司君は難しい顔をしてフォークを置いた。まず一言いいかな。そのケーキは赤司君の為に作った物ではない。決して。

「君は分量をちゃんと計ったのか?チーズの味も些か濃い気がするが」
「確かに分量が曖昧だったのは正直に言います。言いますけれどもね、一応先生にはオッケー貰ったんだよ?A評価。B評価に近いA評価かもしれないけど、A評価なんだよ?ねえ赤司君。確かに赤司君が作ったチーズタルトは非の打ち所がない美味しさでしたけれども」
「あとタルトが少し硬い」
「‥」

どうやら聞く気がないらしい。それにしても、なんで放課後にここまで呼び出されてお互いのチーズタルトの食べ比べをしないといけないのか。これが最初ではないから今更驚きはしないけど。っていうか、一応これ今日待ち合わせしている根武谷先輩にあげる予定だったのに‥。

「‥赤司君にチーズタルト食べられた」
「誰かの口に入るよりいいだろう」
「どういう意味!!」

去年半年、臨時マネージャーとしてバスケ部にいた私が赤司君や根武谷先輩達と仲良くなるのは必然だった。そして根武谷先輩の筋肉と、ご飯を男らしく食べる姿に好感を持つのもきっと必然だったと思う。だからこそ今日を楽しみにしていたというのに。てか根武谷先輩だったら絶対「美味え」っていいながら僅か30秒で平らげてくれた筈だ。赤司君一体何分かかってんの。いくら不味くても。

「‥どうして根武谷なんだ」
「ぇへっ??」
「去年臨時マネージャーになってから、ずっと根武谷に何かと渡しているだろう」
「なんで知ってるの」
「この間のハロウィンも、わざわざ外で渡していただろう」
「なんで知ってるの怖い!!」
「俺は貰っていない」

いやそんなの知らんがな。てかなんで貰える前提。そして何故怒り気味なのか。置いたフォークをまた手に取って、さくりとタルトを切る。今赤司君がフォークを持つと怖い。刺されそうだ。ふと目が合うと、刺された気分になった。

「‥苗字を臨時マネージャーに誘うんじゃなかったと、今になって思う」
「なっ‥そ、んな酷いこと、本人の前でよく言えるね!」
「誘ってなかったらもっと堂々と好きだと言えた」
「ぶっ」
「強豪校の、しかも主将が恋愛毎に現を抜かす等有り得ない。だが俺よりもお前が恋愛毎に現を抜かしていたとは思わなかった。しかも‥根武谷に」
「え、や、根武谷先輩に失礼‥」
「‥根武谷の所には行かせない。俺じゃない誰かの為に何かを作るなんて許さない」

ちょっと待て。赤司君はまさか私が根武谷先輩が好きだと思っているのか。いや好きだけど、恋愛ではない。決して違うし、それは根武谷先輩も分かってる。分かってなかったら根武谷先輩が私に恋愛毎の相談をしてくると思うか?アアン?

「なんなら、根武谷に圧力をかけてもいい」
「なんの!?」

怖い!悪魔みたいな笑み浮かべてる!!この人もしかしたらバカなのかな‥天才とバカは紙一重って言うからな‥

「‥嘘だよ」
「なにがでしょーか‥」
「本当は美味しい。けど、根武谷の為に作った物になんか、美味しいなんて言いたくはないからね。だから、この後すぐ俺の家で作るといいよ」

だから根武谷先輩と待ち合わせあるって言ってるでしょーが、この悪魔。目の前で赤い耳になっている悪魔になんか、死んでも惚れてやるもんか。


2016.12.13