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「女が気合いを入れて作る料理程怖いモンはねえ」

あっそれ私に言ってる?私に言ってるんだよね?
大輝の部屋にて。ハロウィンなんて割と単純な理由で一足遅く大輝に作ってきたチョコレートケーキを、その本人と言えばホールケーキの箱を目の前にするなりげんなり溜息を吐いていた。ちなみにチョコレートにした理由は大輝の色に似せたからである。笑える。

「つーかハロウィンだいぶ過ぎてんじゃん」
「ねえ、私はさつきじゃないから大丈夫だよ。その反応は酷くない?」
「俺は女が作る料理恐怖症だ」
「それさつき限定じゃないの!?」

大輝の幼馴染、巷では美人で巨乳で男子バスケ部敏腕マネージャーで非常におモテになる女子生徒が桃井さつきであるが、驚くことなかれその料理の腕は壊滅的である。見た目もさることながら味も非常にヤバイ。私は一度カレーをご馳走されて、中にゴキブリが入っていたのを見たことがある(ゴキブリの正体は焦げすぎた塊肉だったが)。

そりゃあ料理に自信があるかと問われれば、ない方にメーターは動く。でも、人並みにはできる。砂糖と塩を間違えてないか舐めることもできるし、時間はかかれど見た目も綺麗に仕上がる。のに。今日のケーキだって割と会心の出来だというのに、ケーキの姿すら拝もうともしないのだ、この真っ黒オバケは。

「大輝、さつきにどれ程の脅威を持っているかなんて知らないけどね」
「脅威じゃねーよ。あいつは殺人コックだ、ヤベエ」
「‥うむ、まあそれはヤバイけども」
「想像してみろ。ケーキを作ってきたと言われてケーキを目の前にした時のあの計り知れない絶望感を‥‥腹が終わる」

さつきすごい可哀想だな(けど仰る通りです)‥。遠い目をしだした大輝に南無、とは思うものの。だからこそ私とさつきを同じにしないでほしい。ちょっとは大輝に女として見てほしいからこそ作ってきたんだし、味は割と保証するし。

「分かった大輝。その絶望感を持ったまま私のケーキを見てごらんなさいよ」
「絶望と絶望を足したら死ぬだろ。テメーは俺に死ねって言ってんのか?」
「分からず屋は一旦黙れ!」

ぽかっと大輝の背中を叩いて、白い箱からチョコレートケーキを取り出す。諦めたように月バスを閉じる所に少しだけ、いや本当にほんの少しだけ優しさを感じるからいけない。恋マジック怖い。

「じゃーん!」

ピカピカにコーティングされたチョコはちゃんと光っていて、小さいベリーが飾り付けにちょこんと乗っかっている。それを出した瞬間の大輝の顔と言ったら、目を丸くして驚きを隠せないって感じだ。

「‥お前これ中身グダグダとかほんと絶望だから勘弁しろ」
「中身も普通のケーキだわ!!」

失礼すぎるコイツ。目を丸くしたまま下から上から左右からと、じろじろと詮索する辺りがとても悔しい。‥が、まるで"こんなケーキ初めて見たわ"感でちょっとだけわくわくしている自分もいたりする。

「‥食べてよね。大輝に作ってきたんだから」
「つーかなんで俺なワケ?」
「え、?なんでってそりゃあ、アレ、‥‥‥アレだよ、ご近所、だし‥」
「へーーーエ‥‥」

ニヤニヤするんじゃないバカヤロー。こちとらアンタが好きだからちょっと女子っぽいとこ見せたいんだ!‥と、言える訳もない。付属していた紙皿とプラスチックのフォークをサッと渡して、私は自分の家から持ってきた小さいナイフを取り出した。銃刀法違反?距離にして30秒だから許せ。

「お前ってさ」
「なによ」
「‥ーーやっぱなんでもねえ。それよりやっぱ怖えからナマエが毒味したら食うわ」
「この素晴らしいケーキの姿にまだ躊躇するの!?ばか!!」
「んな怒んなよ。ホラ」
「え?」

切り分けたケーキの一口分をフォークで刺した大輝は、ずずいと私の口元に差し出した。いやごめん。フォークそれしか持ってきてないんだわ。無理無理パスパス、いずれ間接キスになっちゃうじゃんそれはちょっと敷居高い。ぶんぶんと首を横に振れば、問答無用に唇へと押し付けられたケーキ。

「間接キスとか気にするかフツー」
「むあっ!!?」
「ご所望なら後で本物くれてやるからさっさと毒味しろ」
「めっちゃ美味しい!‥え、今なんか言った?」
「俺はお菓子より悪戯の方が好きなんだよバーカ」

ケーキの出来は素晴らしいもので、目を輝かせてドヤ顔かましてみれば嫌な笑みを浮かべた大輝がいた。あれ?ケーキは?そんな疑問は一瞬で吹き飛ぶこととなる。私の最高傑作は、後にきっと大輝のお腹に全部入ることになるだろう。と思う。

2016.12.06