▼▽▼


友達としてのお付き合いっていうのがどういうものなのか、最近少しよく分からなくなってきている。友達としてのお付き合いって、2人でデートに行って、手とか繋ぐものなの?おでこにちゅって、可愛いキスとかするものなの?3回目のデートで膨れ上がった疑問が口から出かかったけど、隣で嬉しそうな顔を隠せない様子の黒尾君を見たらつい黙ってしまった。ちなみに手を繋いだのは1回目のデート、おでこにちゅってされたのは2回目のデート。‥今回は一体何をされるのかと勝手にドキドキしているのは内緒だ。

「今日さ、ナマエを連れて行きたいとこあんだけど」

ああ、そういえば。2回目のデートから、黒尾君は私のことを呼び捨てにし始めたんだった。あまりにもナチュラルによばれたから、最初は何が起こったのかまるで分からなかったけど。相変わらず大きな手で私の手を握っていた彼の突然の提案に、私はうへえ?と変な声を出して首を傾げることしかできなかった。

「‥え?ど、どこ?」
「着くまで内緒」
「えー‥なんで、不安なんだけど‥」
「俺信用ねえな〜」

いや、そういうわけじゃないんだけど。黒尾君と一緒ならまあどこでもいいんだけど‥。それは時と場合によりけり、というかなんというか‥。

「なあ、だめ?」
「え、‥うん、分かった‥」
「ダイジョーブだって、絶対ナマエも好きな所だから」
「ほんとに?変な場所連れてかないでよ?」
「俺は犯罪者かなんかですか?」

少しだけ不貞腐れた顔をして、しょうがないなあを口にして苦笑いしていた私の手を引っ張った黒尾君。そもそもなんで今日のデート先は街中でお洒落なビルが並ぶここだったのか。過去2回、言い方は悪いけど学校付近のその辺だったのに。‥それにここって結構有名ブランドばっかりじゃなかったっけ。高校生の癖に、なんでそんなお金持ってるんだ。

手を引っ張られた先、お洒落なビルのそのまた向こうの、こじんまりしたカフェとアパレルショップが一緒になったような可愛いらしいお店。からからと乾いたベルを立ててお店の中に入ると、ファッションなんかに疎い私でさえも第一印象で可愛いと思った爽やかな色のスカートが見えた。淡いグリーンの、ふわふわした‥マキシスカート?というらしい。値段までは見えなかったけど、他のビルとは少し違って若い層に人気がありそうな、いわゆる私達に合いそうな年相応なお店。

「どうよ、雰囲気」
「う‥うん、可愛いけどなんで黒尾君がこんなとこ知ってるの?女子向けのお店だよ、ここ」
「ここの苺のチーズタルト有名なの知ってる?」
「人の話聞いてよ」

あ、すいません予約した黒尾ですー。いらっしゃいませ、どうぞ奥のお席空いております。ここスゲー人気なんだぞー。お兄さんよく知ってますね。ええ、まあ。

私を置いて、可愛らしい制服のお姉さんと会話を終えた黒尾君は、とりあえずと私が座る席を引いた。なに、そのレディーファーストの精神。ちょっぴり恥ずかしくて吃っていると、そんな緊張しなくても、と呆れたように笑っている。‥いや緊張するよ、さり気ないエスコートみたいなの初めてなんだもん。それに予約もしてたとか、一体なんなの。まだ私、今の状況読み込めてないんだけど。

「‥黒尾君、なんか企んでるでしょ‥」
「まあ企んでると言えば企んでるよなあ。‥てかナマエ、今日がなんの日なのかっていうの分かってねえだろ」
「‥ぅえ?」
「ぶふひゃっ‥いや、そうだろうなーってのはなんとなく分かってたからいいけど」

なんの日なのか?なんかあったっけ、‥そうして気付いた、メニューのホワイトデーの文字。あ、嘘、‥ええ、そういうこと?いやでも、だからってここまで連れてきたこととホワイトデーは関係なくない?‥いや、待てよ。だったらなんでメニューにホワイトデーなんて書いてあるんだろう。そう思っていたら、突然運ばれてきたマカロンとハートマークが描かれたデザインカプチーノ。うわあ、可愛い!つい声に出したら、目の前で黒尾君が、そうだろー?って机に肘をついた。

「まず、ホワイトデーのお返し」
「え、あ、‥ありがと‥」
「んでそのメニューに書いてあるの、読んでみ?」

え、今更読むの?困惑しながらもメニューに目を通すと、メニューにはホワイトデー限定のデザートメニューと書いてあって、そして吹き出しにお菓子の意味が書いてあった。マシュマロ、貴方が嫌い‥って。これメニューにしていいの?クッキー、友達でいて。キャンディ、貴方が好き。あれ、マカロンは?と思っていたら1番最後にその文字が見えて、黒尾君の方が見れなくなった。

‥マカロン、特別な人、って。

「意味、分かった?」

まあそりゃあ。‥これだけ分かりやすく、色んな所に伏線を張られていればバカでも分かる。だから手を繋いだりおでこにキスをしたり、友達なのか恋人なのかよくわからないラインをギリギリ保っていたのかな。‥いやおでこにキスって友達のライン?

「バレンタインさあ、」
「ひゃ、はい、」
「友達からでいいって言ってたけど、まだ友達のままがいいの?」
「‥え」
「もうお互い限界かなって思ってんだけど」

見たことないくらいに優しい顔をして、マカロンをお皿の上でころりと転がした。それがぽとんと机に落ちて、ころころ、私の目の前で止まる。何やってんの、勿体無いことしないでよって、転がってきたマカロンを迷わず口の中に放り込んだ。しゅわりとほんのり甘い、目の前の黒尾君みたい。

「それって俺だけ?」

しん。暫くの沈黙の後、首を横にふるふると振ったまま俯いた私に、ふはって笑い声が聞こえた。居た堪れなくなってマカロンに伸ばした手は、さっと彼の手に奪い取られている。こっち向いてよ。やだよ。なんで。顔ヤバいもん。俺も顔ヤバいよ?超あちい。それはちょっと見てみたいという好奇心が勝ってちらりと顔を上げると、ニヤニヤ顔を浮かべた黒尾君がいた。なによ、嘘つき。赤いの耳くらいじゃんか。‥ばか。

2018.03.21