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トリックオアトリート。
普通であれば、お菓子が貰えるかイタズラが出来るかの二択である。なのに目の前の金髪は、私の大っ嫌いなりんごを差し出して見たことないくらいにこやかに笑っていた。

「‥‥‥‥‥りんごって」
「調理実習の余りっス!!」

うっさい聞いてないわ。てか余りってなんだ!!しかも2切れってなんだばーーか!!

「りんごはお菓子じゃないんですけど!」
「いいじゃないっスか〜、美味しいっスよ?」

美味しいってボケてんのかコイツ。そもそも今回のハロウィンだって、お菓子欲しいっていうからじゃあ交換ねって話しだったのにさ。いや別に黄瀬の手作りを期待していた訳じゃない。当たり前だけど、コンビニとかにあるちょっとリッチなチョコとか、期間限定のジャガリコとかを期待していたんだよ。展開がまさかすぎるんだよ。せめて調理実習で作った物を寄越せ!

「‥黄瀬ってほんとモテる癖に雑。主に私に」
「オレ、女の子にちゃんとお返し用意したの初めてなんスけど!」
「用意だと?調理実習の余りとか言ったのはどの口だっけか?こら。しかもりんごは私の嫌いな物ナンバーワンだ!」
「ええっ、そうなんスか?女子って果物好きな生き物じゃないんスか?ナマエっちってば可愛くないなーもー」

ああ"?‥ってやば、野太い声出そうになった。女子でも果物好きな奴もいれば嫌いな奴もいるんだっつーの!女子にどういう夢見てんだよ。私は間違ってもハロウィンにりんご貰って「黄瀬君が私にりんごをくれた‥!!」って言う女子じゃないわ。なめんなよ。

「はい黄瀬イタズラ決定〜。とりあえず今週のテストは助けない」
「はあ!?そりゃないっスよ、つかそれイタズラじゃなくてイジメ!!」
「うるっさい!!」

お腹空かせてたのに期待なんてするもんじゃないな。私に対する黄瀬の態度は他の女の子と違って、距離もとても近いし相談もよくしてくれるし、相談も聞いてくれる。このハロウィンのお菓子交換でもっと距離を縮めておこうかと思ったが‥‥‥なんか、熱引いた感。ああ、黄瀬は私をザ・友達としか思ってないんだな。‥‥‥って!!!

「なにチュッパチャプスなめてんの!!?」
「えっ、ダメなんスか?」
「普通そっち渡すでしょ!!?りんごこそ黄瀬が食べるべきであるし!!」
「ならいいっスよ。これあげるっス!はい」
「はい。じゃない!!貰えるわけないし!!」
「ナマエっちって小難しいっスねえ。女の子なら皆喜んでくれるのに」
「口付けた物を友達に差し出すな!っての!!」
「友達じゃなかったらいいんスか?」

‥なんだその返し。いやまあそりゃ彼氏彼女だったらいいんじゃないの。そう考えながら首を縦に振って、思いっきり溜息を吐いてやった。

「むが!!」

溜息を吐いた瞬間、口の中に広がるプリン味。気付いたら、黄瀬が笑いながら食べていた筈のチュッパチャプスを私の口に突っ込んでいた。無理矢理だったから前歯に当たって痛い。

「‥っちょっと!?」
「ナマエっちと間接チュー、なんつって」
「‥」
「さっきの訂正。間接チューを気にしちゃうなんて、やっぱ女子っスねえ。かーわい」
「人の話聞いてた!!?」
「聞いてたっスよ、友達じゃなかったらいいんスよね?」
「だからそ、むごっ」

おいおいおいさっきから何やってんだ。口に突っ込まれたチュッパチャプスをまた奪い取った黄瀬は、私に顔を近付けてふわりと笑う。そして、私が舐めたチュッパチャプスをぺろりと舐めた。‥ゆっくり見せつけるような舐め方がとても厭らしくて、顔が熱い。

「こういうこと、オレはナマエっちにしかしないんスよねえ。‥それってさ、どういう意味だと思う?」

そんなこと聞くなよ。‥なんて思いながら固まっている私の後ろでは、女子の悲鳴がまるで嵐のように轟いている。ああ、明日私は黄瀬ファンの女子生徒達に殺されるかもしれない。けど、それ以上に今幸せかもなんて、黄瀬には言ってやんないし、これでお菓子がチャラになるなんて思ってたら大間違いだかんね、ばーか。

2016.11.15