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付き合って1ヶ月。そして私達は先日卒業した。ああ、告白しておいてよかったなあって、初めてのデートで彼氏の東峰君を待ちながら思う。安い義理チョコレートを渡したという記憶だけはどうにかしたかったので、後日ちゃんとした物を渡したし。‥彼はすっごく恐縮してたような感じだったけど。思い出したら笑っちゃう。

春からは私は大学生で、東峰君はとある企業の内定が決まっていた。頑張っていたバレーボールをそこでもやっていくらしい。東峰君らしいし、私もそれが凄く嬉しかった。また春からもかっこいいスパイクを決める彼が見れるのが今から凄く楽しみでたまらなかったりする。ふわふわと踊る心と同調するように、そわそわきょろきょろとしながら、少しだけ暖かくなった強めの春風に揺れた、綺麗なグリーンのマキシスカートの裾を握り締めた。‥ちょっとだけ背伸びしたくて買った真っ白なデザインスリーブは、友達がこれだ!と猛プッシュされたもので、ちらちらと二の腕が見えたりするのだ。ふとした時に肌が見えると、男ってどきっとするんだって。‥それってほんとかなあ?

「あれ、‥?ごめん、遅かった‥!?」
「だっ大丈夫!ちょっと早く着いちゃっただけ!」
「メールくれれば急いできたのに、」
「化粧直したかったから。気にしないで」
「‥ほんとだ、なんか目の下キラキラしてる」
「ちょ、ちょっと‥、あんまり見ないで、」
「えっアッごめっ」

お洒落なコートとジョガーパンツでさりげなく綺麗に纏められている彼は、いつもと違って凄く大人っぽく見えた。私、大丈夫かな。本当に変じゃないかな。颯爽と横を通り過ぎていくお姉さんとか、同じ歳くらいのお洒落な女の子とか、東峰君目移りしちゃわないかなって思った。‥けど、彼はやっぱりじいっと私の顔や格好を見回すばかりで全く他に目もくれていない。‥だから、恥ずかしいってば。

「‥あの、行かないの?動物園‥」
「行っ行く!行こう!」

ぐるりと前を向いて私に背を向けた東峰君の右手と右足が一緒に出て、つんのめって、爪先を地面に引っ掛けた所で噴き出した。私の緊張なんていつ間にかどっかにいっちゃって、焦っている東峰君の腕に手を伸ばしてみる。ぴたっと触れた瞬間にびくりと大きく震えたけれど、かっと赤くなった顔が可愛くて、そのままくるんと自分の腕を巻きつけた。周りのカップルに当てつけられたわけじゃない。そうじゃなくて、ちょっとだけ気が大きくなっただけ。‥今ならできるって、そう思っただけ。

「ナマエちゃん、ほんとずるい‥」
「えっ、なんで、」
「先に俺がしようと‥思ってたのに‥」
「‥‥私の腕を東峰君が組むの?」
「そ‥うじゃなくて、‥あの。‥手を繋ぐ、方」

あの時もナマエちゃんから手を繋ぎたいって言ってくれたから、今度は俺からだって思ってたのに。ぽそぽそと、しどろもどりになりながら気まずそうに目を逸らした東峰君に思わずきゅん。心臓の端っこの辺りが音を立てた。それいつの話だっけ。1ヶ月前のバレンタインデー。あー、そういえば!なんて、思い出したふりをしてまた笑った。覚えてる、覚えてるよ。私のことを、俺はその倍好きって言ってくれた日だもん。

「また私に先越されちゃったね」
「ちょっとはかっこつけさせてほしいな‥」
「かっこいいよ。‥東峰君、いつもかっこいいから、いいの」

へなちょこだって言われようとも、私は彼のかっこいいところも良いところも、人よりずっと知ってるつもりだし。腕を強く巻きつけて、ぐいっと引っ張った。ほら、早く行こうよ。触れ合いのできる小動物のコーナー、16時までなんだよ。

「待って」
「わっ」
「その前に渡したいものがあって‥」
「?」
「‥今日、ホワイトデーだから」

瞬間、キラキラと目の前が瞬いた。‥と思ったら、首回りに硬くて冷たい感触。そうして、近い距離に東峰君の顔。驚いて思わず後退りすると、満足そうに東峰君が笑った。なんだなんだと触れたそれは、多分女の子が大好きなあれだ。

「え、‥ネックレス‥?」
「うん。‥真ん中の飾りだけ俺のとお揃い‥だったり」

う、うそ!!驚いて東峰君の首元を見て、慌てて周りに私を映す鏡かガラスがないか探して、そして目にしたそれはキラキラとシルバーに輝いていた。こんなの、どうやって!

「手作りだから、‥お金殆どかかってないよ」

申し訳なさそうに眉を下げているのが、少しだけかちん。お金がかかってるとか、そんなことじゃないもん。時間を割いて私の為に作ってくれたもの。しかもお揃いなんて。嬉しいを通り越して感激なんだけど。なのに、そんなこと言わないでよ。

「‥東峰君ってばかだね」
「ばっ!?」
「買ってもらうより、ずっと嬉しいのに」

似合うかなってくるりと回ってみたら、俺が似合うと思って選んだパーツだからと照れ臭そうに頬を掻いた。‥ずっと私のこと考えてたって意味に捉えられるんだけど、合ってる?

「‥何をあげたら喜んでくれるかなって、ずっと考えてたよ」

ぴゅうっと吹いた風は冷たいけれど気持ち良い。じゃあ行こっかって今度は半ば強引に掴まれた掌は、前とは違って強く握られている。きらきら、きらきら。私の首元で光るそれを見て、東峰君が自分のしているネックレスを掴んではにかんだ。

2018.03.15