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「うーわ、今吉似合いすぎて引く」

他の高校より遅めの文化祭、そして遅めのコスプレ。三日前がハロウィンということもあって、他のクラスではコスプレ喫茶やら「トリックオアトリートと言えばお菓子プレゼント!」と書いてある看板やら、完全にハロウィンにあやかった物が目立つ。そして中学、高校と一緒に過ごしてきた腐れ縁的な奴も‥‥っておい、そんな格好して何笑ってる。笑いたいのはこっちだっての。

「苗字も似合いすぎやろ、その執事姿なんやねん。性別逆なんちゃう?」
「自分よりモテそうだからって僻むな僻むなー」
「ぬかせ。僻んでへんわ」

真っ黒な服とマントに身を包んだ今吉は、我が桐皇学園男子バスケ部の主将だ。主将とか、それこそなんかの間違いじゃないかとは思いたいが、残念ながら実力はあるから何も言えない。そして、そんな主将・今吉のクラスが"血の食卓"とかいう恐ろしい喫茶店を出すとは聞いていたが、そんなリアルなものだなんて思っていなかったし、てか似合いすぎだし(2回目)。その口から小さく出た牙とか。

「苗字んとこは入れ替え写真館言うとったか?男子がメイドで女子が執事。あれやな、この文化祭一アホなことしとるクラス」
「血の食卓っていうネーミングも同じくらい血迷ってるでしょ!」
「ドラキュラぴったりやろ?」

ぴったりやろ?じゃないわ!確かに私のクラスは皆女装・男装して、お客さんの気に入った人と好きに写真を撮る、とかいうお互いなんのメリットがあるのか分からないお店をしているけど、意外や意外、結構お客さん来るんだからね!そして私はNO.3内を彷徨っているモテ執事だ!嬉しい訳無いだろ!

「普段モテへんからってここぞとばかりに媚売っとってもアカンで。ボロはすーぐ出てまうからなー」
「頭の中と心の中が暗黒世界みたいに真っ黒な今吉にだけは言われたくない」

そう言いながらべしっと今吉の肩を叩いた。頭を叩いてやりたかったが、残念ながら身長的には届かなかったのだ。むかつく。

「んで、何しにきたの?お店は?」
「とってもイケメンと本日校内で絶賛噂されとる苗字と写真でも撮ったろかなーと思ってなあ。こんな機会中々ないやろ?ワシもドラキュラやし」
「血でも飲んでろ」
「そんな酷いこと言わんでええやん。ホラホラ、ちゃんと仕事せな苗字」

こいつめっっっっちゃ面白がってる。さも当然のように私の肩を抱いて、すたすたと教室内に入っていく。ああ嫌だ。普段から私と今吉の仲を疑っているユミとか、仲の良い男子がめっちゃ見てくる。なんの見世物だこれは。

「相変わらずですねえ今吉君。なんていうの?イケメンとイケメンが並んで目の保養?的な?」
「ユミ、私は女子。今吉は腹黒いドラキュラ」
「イケメンとイケメンなんて、そんな上手いこと言われてもなんも出えへんよユミちゃん」
「そんなあ。今吉君、私どうせならイケメンがイケメンを襲ってる写真とか撮りたいんだよね!」
「ちょ、ユミ!趣味を押し付けてくるのはやめて!」
「お、それええやん」

今吉そういう趣味だったの?!約6年間友達として過ごしてきましたが初めて知りましたけど!驚愕すぎて顔を引きつらせていると、細い目をさらに細くした今吉が‥‥舌舐めずりをして私を見下ろしている。ヤバイこいつマジ私今脳内の警報音凄い。

「イケメンなあ‥」
「‥自分の方がかっこいいとか当たり前のこと言わないでよ。私は女なんだからね」
「何言うてんの。残念ながら執事の格好なんかしとっても、苗字は女にしか見えへんわ」
「‥‥は?」
「ギャー!!禁断の世界!!!」
「凄い良い絵になるー!ヤバイ超萌えるヤバイ!!」

いやいやいや。ちょっとユミ含む周りのギャラリーほんと勘弁して。てか今、今吉小声でなんて言った?なんか割と恥ずかしいこと言ってなかった?

「っい"‥っ!!」

上を向いていると、そっと近付いてくる今吉の顔。テンパりすぎて超スローモーションに見えたけど、体は筋一つ動かすことができなくて、気付いたら首元に痛みがした。そのニセモノ犬歯で噛んだのか!?やめろ血が出る!

「あー‥‥ここがギャラリーの中心やなかったら、苗字のことうまーく丸め込んで、血ごとぜーんぶ美味しく頂いとったのに」
「っ‥!」

ピリリと痛む首元に、ぬるりと這う何か。満足そうに笑った顔が見えたのは‥‥何かの間違いだと思いたい。今吉ってほんと、何考えてるか分かんない。‥‥そして、顔、アッツイ。

「ナマエと今吉君が二次元の扉を易々と超えてくれて嬉しい!!!」
「ユミその写真燃やして。ネガも」
「ワシが燃やしとこか?」
「私強請られるから!!絶対渡さないでよユミ!!」


2016.11.10