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春休みって暇だ。もちろん親は2人とも仕事だし、私だけ家の中。好きなことできるし、ごろごろし放題だけど、そろそろ人間としての生活が問われる状態だ。いいのだ、1ヶ月前ににこやかにフラれた私に今必要なのは休息。そう決めつけてまたソファに大の字になった。

「‥‥大輝君め」

実はあの日以来、大輝君とはちゃんと話していない。一方的に避けてると言ったらそれまでだけど、別に、‥話すことも思い浮かばなくて。なんかその、‥‥キスまでされて気まずかったし。

「ああもう!!」

ガバッと起き上がって、気分を変えようと自分の部屋に向かう。出かけようかなあ、折角天気も良いし。ずっと家にいたら引きこもりみたいだし。思い付いたらさっそく実行だと手に取ったのは、クラッシュデニムのジーンズと、今流行りのオフショルダー。普段つけない色付きのリップクリームをつけて化粧をして、さっきまでのズボラな私とはさよならだ。適当な雑誌を手に取って、何処に行こうかと思案していると、玄関のインターホンが鳴った。

「‥?」

誰だろうか。変な勧誘だったらやだなあと思いながら、ドアホンの確認に向かう。‥なに?なんかヤケに黒くないか?と思った瞬間に、画面一杯に映る大輝君の顔。

「ヒッ!!」

私の家を知っているのは前からだし驚くこともないけど、なんでわざわざここまで来ているのか。ボタンを押して返事をするのも億劫なんだけど。どうしようかと考えていると、『おいいねえのかナマエ』というドスの効いた声もプラスされた。親いたらどうするんだこのおバカさんは。

「だ‥大輝君‥?」
『なんだよいんじゃねーか。おい出掛けるぞ。準備できてっか』

横暴!!しかも準備出来てるかって、大輝君の為に準備してるつもりじゃなかったけど出来てるよ私のバカ!

「‥で!出来てるわけないでしょ!なに、急に来て何言ってんの!?」
『だったら待ってるから早く準備しろ。10分な』
「いやいや!」

何の為に。そう答えるつもりだった私の口は即座に閉じた。大輝君の手に握られていた袋が、かの有名なケーキ専門店の袋だったのだ。しかもただのケーキではなくて、チーズケーキの専門店。なんでそんな物持っているんだろうか。そしてそんな物を持ってなぜ私を誘う。もしかしたら桃井さんにかな。そうだそれだ。それでなんか、女子的なアドバイスがほしいんだきっと。‥そう思うことにしておく。

『早くしろ。時間かかるんだったら中入れろ』
「最低!女子の家!!」
『まだなんもしねーよバカ』
「まだって何!?」
『うるせえな!早くしろドア壊すぞ!』

それは流石にもう親に言い訳の仕様がないので勘弁してもらいたい。慌ててシルバーのカバンを引っ掴んで、上からドレープのトレンチコートを羽織った。ちょっと大人っぽくしたのは、決して大輝君の為ではない。決してだ。全ての電気を確認して、鏡でどこもおかしくないか確認すると、前髪がちょっと跳ねていたのでカチューシャで上げた。女としての身嗜み。私は何も気にしていない。ちょっとだけ大輝君の格好がカッコイイからなんて気にしていない。‥嘘です、ちょっとは気にしているけども。

「もう、急に何どうしたの‥!」
「んだよ、結構準備はえーじゃん。もしかして今日期待してたワケ?」
「は、今日期待してたってなんの話‥なんかあった?」
「お前女子だよな?」
「失礼な!」
「まあいいわ。とりあえず行くぞ、今日は特別に色々付き合ってやる。とりあえずNBA観戦チケットもらったから見に行こーぜ」

付き合ってやるって言ってるのに何故私が付き合ってやっているのだ!意味が分からなくて今日がなんの日なのかiPhoneを開くと、目に入ったのはwhitedayというイベントの文字。‥‥いや、ちょっと待って。今日14日だっけ?‥っていうかこの人本気?本気で返しにきたの?バカなの‥?

「あ?」
「ねえ、ちょっと‥‥この間のチョコレート、大輝君の為に作ったわけじゃないんだけど‥」
「うっせーな!いいんだよ、お前どーせ今日1日凹んでんだろ。俺も凹んでんだよ!つべこべ言わずに付き合え!!」

あれ、1日付き合ってくれるという言葉はどこに。自分勝手で横暴な大輝君に口が思わずとんがったけど、彼の顔を盗み見たらなんか全てが吹っ飛んだ。真っ赤っかじゃん。ついでに私もなんか顔が熱くなってきた。

「‥逸れんなよ」

取られた手はがっしり握られて痛かったけど、そんなのもうどうでもいいや。大輝君のおかげで、ホワイトデーが好きになりそうです。来年のバレンタインデーは好きになれるといいな。あわよくば、大輝君の隣で。

2017.03.31