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「むかつく」
「は?」

出ましたいきなり今日1番の不機嫌声。まあ不機嫌にさせたのは私かもしれないんだけど。幼馴染で1個下の白布賢二郎、その彼の部屋まで遊びにきて、ついでにバレンタインのチョコの数を自慢するつもりだったのに、部屋に入って目に入ってきたのは、2個の紙袋にこれでもかと詰め込まれた可愛い袋や箱。ちょっと白鳥沢学園の女子達はどうなってんの。こんな無愛想の塊を人間にしてしまった賢二郎がモテるなんて聞いてない!

「ねえあんた‥バレーする為に白鳥沢入ったんだよね?モテる為じゃないよね‥?」
「‥‥‥。ナマエはそんなんだから頭悪いって言われんだろ。少しは自覚しろよ」

ハーン?歳上に向かってなんという口の聞き方。白鳥沢学園の先輩方にシメられてないだろうかと少し心配になった。どさりと床に座り込んで、紙袋を物色。おお‥結構良いお品物貰ってるじゃないですか。白鳥沢学園の女子は経済力がありそうだからなあ。いただきます。

「つーかなんの断りもなく何食ってんだ」
「え?なんで、どうせ食べないんでしょ?それに賢二郎の物は私の物でもあるし」
「ちげーよ。ジャイアンか」
「こんな美人なジャイアンいる?」
「末期」
「酷い」

こんなに可愛くラッピングされて、中身だって申し分ないくらい美味しいのに、賢二郎はいつも貰うだけで1つも食べないのだから酷い奴だ。お返しだって多分したことはない。呆れた賢二郎の隣でもくもくとチョコを食べながら思う。こいつはいつか女子に刺される。

「食べ方きったね‥」
「どこが!」
「唇にすっげーついてる」

ココアのたくさんまぶされた、チョコ大福みたいな大きいお餅にかぶりついていると、冷ややかだった彼の口が可笑しそうに歪んでいた。それはおそらく、食べ方の問題ではなくてココアパウダーの問題だ。今年はバリエーションが豊かで、文句無く美味しいものが多い。さすが愛が詰まったチョコレートである。

「‥つーかさ」
「んー?」
「ナマエが俺にチョコ持ってきてくれたこと、一度としてないよな」
「いやいらないでしょ。そんだけ貰っといて食べないのになんで欲しがる必要があるのさ」
「やっぱバカだわ」
「またバカって言ったな?どうぞ食べたいんならココアパウダーのついた口でも召し上がれ〜」

なーんて、賢二郎に出来る訳ないでしょうけどね。賢二郎の綺麗なお顔はびしりと歪んだまま固まっている。うわ、めっちゃウケるんだけど写真撮りたい。机の上にあるポケットティッシュに手を伸ばしてケタケタ笑っていると、伸ばした手が賢二郎の手に捕まった。

「‥それ本気で言ってんの」
「はい?」
「自分の言葉には責任持てよってこと」

何を言い出すのかと思っていると、真顔の賢二郎はそのまま顔を近付けてきている。‥ちょ、ちょっと。ちょっとちょっと。そういうので躍起になるようなやつじゃないじゃん何やってんの?!

「‥タイム!!ストップ!!」

べし。触れる寸前に片方の手で壁を作れば、賢二郎と私の掌がキスをしていたが、まあなんとか助かったと大きく息を吐く。‥賢二郎ってこんな綺麗な顔してたっけ。‥って、うわ。‥目が不機嫌MAXのやつだ‥。

「‥なに、召し上がれっつったのそっちだろ」
「いや本気でしてくるなんて思わないじゃん!どうしたの?なんかあった?チョコ大福は食べられたくなかった!?」
「煩さ。いいから黙って流されてくんない?」

思いの外真剣な瞳は、私の力を抜くには充分だったらしい。流されてよって、なんで流されないといけないんだ。っていうかそんな台詞どこで覚えてきたんだ、‥と、触れた唇が文句を言うことはない。

ファーストキスが賢二郎だなんて信じない。ついでにファーストキスがレモンの味だっていう噂ももう信じない。‥‥その後に押し倒された事実だって、当分は頭の中から抹消してやる。

2017.04.03