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「うーん‥」

クッキー。ケーキ。はたまたアクセサリーか、マグカップか、ハンカチか、タオルか‥‥色々考えてみたけど何も思いつく筈もなく、私は途方にくれたまま店内をひたすら歩き回っていた。バレンタインで私も京治君からチョコ貰っちゃったんだからそりゃあホワイトデーのお返しだってしなきゃいけないでしょ!くそ〜こんな筈じゃなかった‥!お金が足りない!!

「お姉さん、先程から何かお探しですか?」
「いえ!お構いなく!!」

流石に不審に思ったのだろう女性の店員さんが喋りかけてきたので、慌てて距離をとって逃げる。危ない危ない。私は店員にうだうだと話しかけられるのが苦手なので、申し訳ないと思いながらもカバンからイヤホンを取り出した。所詮「音楽聴いてますので話しかけないでください」スタイルである。京治君の為にも1人で選びたいのだ。

バレー部だし、タオルとか実用性のある物がいいかなあなんて思いつつ、いやホワイトデーなんだからクッキーとかの方がいいんじゃないかと、シンプルな黒ラインが入ったタオルから視線を外す。いやでもクッキーかあ‥‥なんて、ちょっと代わり映えないなあとか考えてしまう。もうちょっとお金に余裕があれば、ちょっとおしゃれなネックレスとか買えるのにな。‥いや、つける機会がないか。

「‥あ、」

思わず足を止めた先、きらりと光った小さいリング。‥と、よくよく見ればネックレス。しかもペアネックレスになっている。‥凄い可愛い。しかも、指にはめるくらいの大きさではないからいやらしくもないし、私の分も買えば一石二鳥じゃんか。欲しい。近くまで寄って手に取ってみる。ブラックシルバーとベビーピンク。値段はさすがに‥‥いや、買おうと思えば買えてしまうぞこれは。

「‥‥」

いやしかし、誕生日でもないのにこんな物をプレゼントしていいものか。逆に引かれないだろうか。「うわ、もしかしてこの人かなり重い‥?」って思われないだろうか。悩んでいると、後ろから人の気配を感じて固まった。‥やばい、また話しかけられる。そう思ってネックレスを置こうとしたら、ネックレスを持っていた手ごと捕まった。‥え?いや、捕るつもりだと思ってたの!?そんなに怪しかった!!?

「何やってるの?」
「けっ‥京治君!!!?」

振り向くと、そこにいたのは今日部活があった筈の京治君の姿で。‥いやまあ確かに学校から近い所で買い物をしていた訳だから、誰か生徒に会ってもなんらおかしくはないと思うけど、なぜこんなピンポイントに京治君と!!

「京治君部活は!!?」
「休日だからってさすがに朝から晩まではしないでしょ、合宿じゃないんだから。終わった時点でメールしたんだけど‥気付いてなかったみたいだね」
「え、嘘っ!?」

真剣に選びすぎてて全く気付かなかったらしい。そういえば、ここまで来る時に着信音をサイレントに変えたんだった‥。

「それ、買うの?」
「あ、いや、いやいやこれはちょっとね〜‥!」
「珍しいじゃん。アクセサリー選んでるの」
「‥‥そりゃあ私だって一応女子だし‥」
「ペアネックレス‥‥随分可愛いことするね」

ネックレスをじっと見ていた京治君は、頬を緩ませながら笑う。少しだけ頬っぺたが赤いのは気のせいだろうか。もしかして、‥。ペアネックレス、嬉しいのかな。嬉しいんだったら迷わず買っちゃうけど‥。

「でもごめん、買わなくていいよ」
「えっ」
「それより、ナマエに渡したい物あるから早くここから出よう」
「えっ!!?」

いや、嘘でしょ!!?私がなんの為にここにいたのか分かってた顔じゃん!!?どんな意地悪!!?いつの間にか手を繋ぐという行為にも慣れてしまった私達の後ろから、また視線を感じてちらりと後ろを振り向くと、先程の店員さんが目を丸くして京治君を見ていた。‥あれ、知り合い‥?

「‥ねえ、あの男の子この間佐藤さん接客してた子じゃない?」
「そうそう。あれが言ってた彼女さんかも。全く同じ物選んでたんだけど‥凄いよね。愛だね〜!」

ほんの少しだけ残ったしこりが一瞬で消化された。てか店員さん声が大きい。‥京治君耳真っ赤なんだけど。

「‥ねえ、京治君、私まだお返し、」
「そのうちナマエのこと貰うからそれでチャラね」

ぎゅう、と握られた手はいつの間にか恋人繋ぎになっている。京治君の言葉の意味を理解するまでに数分を要したけど、その意味に気付いた瞬間ネックレスを貰うべきか貰わないべきか悩んでしまった。‥いや、結局私はだらしなく頬を緩ませて、京治君に飛び付くくらいには喜んで貰ってしまうのだろうけど。

2017.04.14