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「ねえ蛍。このモデル超かっこよくない?」
「そう」
「私この間他校の人に告白されてねえ」
「ふーん」
「6組の山田君が‥」
「へえ」
「‥」
「あの‥苗字‥大丈夫?」

大丈夫なもんか。これ、一応彼氏と彼女の会話だぞ。付き合い始めて1ヶ月で既にこれだよ?一体何者だよ月島蛍。いや彼氏なんだけどさ、幼馴染と言う名の。なにもかもにクールで冷静かもしれないけど、彼女の口から怪しい男の話が出たら少しは嫉妬してほしい。してほしくて言ってんのになんで私がダメージ受けなきゃなんないの!!

「ねえ忠君‥蛍は私のどこが好きなんだと思う‥?」
「え?どこが?」
「ねえなんで疑問系に疑問系で返すの」
「ご、ごめん!」

いや忠君は悪くない、悪くないよ。こんな質問をした私が悪いし、さらに言うならそんな質問をしてしまう程に彼女に冷たい蛍が悪いんだよ!!

1ヶ月前、あれだけ私の告白に照れていた蛍は幻だったのだろうか。やっと幼馴染の壁を乗り越えたというのにさらなる壁発見と言ったところだ。まさに鉄壁。伊達の鉄壁とか言ってる場合じゃないからね蛍。蛍の鉄壁はそんなもんじゃない。ヘッドホンで音楽を聞きながら、その音楽のCDをぼんやり眺めている姿にギリギリと歯ぎしりが鳴る。私はCD以下ですか!!

「ツッキーはツッキーなりに、苗字のこと好きだと思うけどなあ‥」
「忠君はさあ、蛍の忠実な僕みたいだよね」
「いや友達‥」
「知ってるよ!!山口うるさいとか冷たく言う癖に、蛍が忠君好きなのは見てて分かるもん」

いやあ‥なんて少し嬉しそうな忠君が羨ましい。蛍だって、もう少しだけ私のことそういう風に思ってるのを出してほしいのに、微塵もないんだもん。手を繋いだこともないし、ちゅーもない。帰りも忠君が絶対いるもん。ねえこれどっちが彼女?忠君?蛍はホモ?ホモなの!?

「ちょっと、口から出てるんだけど。周りに誤解生むからやめてくんない?」
「何よーーー蛍が悪いんでしょーーー」
「あからさまな挑発で嫉妬なんかするわけないでショ。バカなの?」
「バカって!」

なんてこと言うの!!仮にも彼女だって言ってるでしょ!!そんな私の怒りに忠君は苦笑い。蛍に至っては呆れ顔で見下ろしてくる始末である。いやどうせ見下ろすしかない身長差なんだからしょうがないんだけど、ちょっとは屈んで視線合わせるくらいしなさいよ。

「蛍はさー、忠君と付き合った方がいいんじゃない?」
「は?」
「忠君の方が優しいし?私みたいにバカみたいなこと言わないししないでしょ。お似合いだと思うけど。私なんかよりよっぽどさあ‥」
「ちょ、ちょっと苗字‥!?」

彼女みたいに、女の子みたいに扱ってほしいだけなのだ私は。告白の時の蛍の顔が、あの1回だけなんてやだ。我儘なんですよ私。嫉妬にまみれてる蛍だって見てみたいし、もう1回、あの真っ赤な顔も見たい。不貞腐れて机にうつ伏せると、頭の上から溜息の音。潔くふってくれればいいさ。

「ねえ、ちょっとこっち向いてくんない?」
「無理、もう顔も見たくない」
「そう。僕は見たいから向いてくれる?」

ぴくっ。なに、僕は見たいから向いてくれる?土壇場になってそのセリフなんて、卑怯だ!動きそうになった首をなんとか固定して、忠君の腕を掴んだ。ざまーみろばーか、ばーか。

「‥それ、誰の腕だと思ってんの」
「忠君」
「‥あのさあ」
「ふん」
「ナマエがよく知りもしない相手に、僕が嫉妬するとでも思ってんの」
「‥はい?」
「だから、山口に嫉妬しないとでも思ってんのって聞いてんの」
「えっ!ちょっと待ってツッキー勘違い、」
「うるさい山口」
「ごめんツッキー‥」

‥なんだそれ、どう言う意味だ。そう考えた所で顔はあげられないし腕は話せない。久しぶりの怖い蛍の声が聞こえる。それでも意味を理解し終えて、私の顔はにやけているのだ。どうしようもない奴め。とりあえず、忠君ごめん。今私が言えるのはそれだけだ。

2017.02.24