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違う学年。違うクラス。部活も名前こそ同じだけど違う。目を惹くほどには美人で、性格はサバサバしているからか男友達も多い。それで一番厄介なのが、男子バレー部主将の木兎さんと仲が良いということ。別に付き合っていますなんて言う理由もないから本人達は知らないだろうが、苗字さんと俺は付き合っている。嫉妬なんて醜いことはしないタチではあるが、それでも空気を読めと言いたい程にはイラついていたりする。

「くっそおおお!!さっきからぽんぽんぽんぽん軽ーくレシーブ上げやがってええ!!」
「だって木兎がこっちに打ってくるんだもん」
「あかーし!もう1本俺に寄越せ!!」

部活の始まる30分前、男子バレー部である俺、そして女子バレー部の苗字さんは、木兎さんに無理矢理連れられて体育館のコートの中にいた。折角来週の休みの予定を立てるつもりで体育館まで二人のんびり歩くはずだったのに、数秒後の暑苦しい木兎さんである。中間テストを無事に乗り越えて、やる気が絶頂に達しているらしいことはよく分かった。が。が、である。タイミングが腹立つ。

「ねー木兎、これで約束の10本目だよ」
「もう!?いーじゃねーか、ラスト!ラスト!」
「ええ‥」

全国でも名を馳せる、梟谷学園3年女子の高身長リベロ苗字ナマエさん。175cmもあるが、高身長だからこその長い腕と長い足で、味方コートを守る頼もしい選手だ。‥と、この間月刊バリボーで特集されていた。可愛く写真まで撮られていて、迷わず雑誌を買って本棚に陳列した。いやそれはいい。そんな苗字さんが、the バレー馬鹿(野郎)である木兎さんのお目に止まらない訳はないと分かっていたとしてもだ。

「木兎さん、もう着替えないと時間なくなります」
「何を言うあかーし!主将が負けっ放しなんて良いと思ってんのか!!」
「あと1本決まったところで6:4で木兎さんの負けですよ」
「なあーにいー!?じゃあラスト2本!!」
「結局同点じゃん。もう終わりー、女子は着替えに時間がかかるの」
「そんなこというな苗字!!な!!」

ずるずるずる。苗字さんの服を引っ張って駄々をこねる木兎さんを見て、またぴきりと額に筋が入る。誰の女だと思って服引っ張ったりしているんだ。知らないからしょうがないけど。

「ちょっと木兎!!うちのリベロにちょっかいだすのやめてくれる!?」
「‥」

いい加減離してもらおうと彼女に近付けば、今度は女バレで彼女と仲の良い主将の登場により木兎さんは離されていた。同時に俺の出番が無くなった訳だが、それはなんというか本望じゃない。そこは俺が行って、そのタイミングで「俺の彼女ですよ」とでも言わせてほしかったところである。

「もー、ほら、赤葦がしっかりしないと!!木兎を手駒にできるのはあんただけなんだからね!」
「手駒にできてたら木兎さんももっと言うこと聞いてくれますよ。そもそも俺は2年です」
「2年だけど梟谷男子バレー部でレギュラーでセッター務めてるのは〜?」
「‥‥俺ですけど」
「はいっ!そういうわけで木兎よろしく〜!ほら行くよナマエ!!」
「ちょっ、ユミ‥」

どいつもこいつもいっつもいっつも邪魔をしてくるもんだから、ゆっくり話せるのなんて帰宅した後の電話くらいだ。朝練の時間は違う。昼だってわざわざ3年の校舎には行けない。放課後はこれだし、しかもかれこれ半年程。付き合って半年だから、付き合ってからもこのループがずっとだ。それを思い出したら頭痛くなってきた。告白したのは俺だ。苗字さんも、少し照れながら「私も」とは言ってくれた。でも、実際の所苗字さんはこんな面倒くさい、付き合ってるのかもよく分からなくなりそうな状況をどう思ってるんだろうか。そう溜息を吐いて、彼女を見た瞬間だった。

あ か あ し

確かに、彼女の口がそう動いたのだ。思わず目を見開いた。

ま た あ と で ね

そして、笑いながらそう言った。それはそれは、可愛い笑顔で。普段そんなことしない癖に、なんですか急に。ぽかんと口を開けていると後ろからわらわらと現れる男子バレー部。まだ着替えていない木兎さんと俺を見てけしかける声が聞こえてきたが、どうも俺は動けないらしい。

「くっそー!!今度という今度は!!俺は!!」
「木兎さん」
「どうしたあかーし!!」
「いい加減俺怒りますから」

そう一言だけ言えば、ぴたりと止まった木兎さん及び周りのチームメイト達。おいなんで赤葦怒らせてんの木兎。知らん!なんか急に怒りだした!猿!助けて!無理でショ。なんで!!そんな声をBGMに、息を吸った。

「苗字さん!」
「え?」
「‥今日は、誰にも邪魔させないので!」

ガキみたいだな。そう思っても止まらなかった言葉。驚いた苗字さんの顔が真っ赤で、ちょっとだけ優越感。皆に説明は‥まあ、後でいいか。そう考えながら、慌てる木兎さんを置いて更衣室へと向かった。‥さあ、練習頑張るか。

2017.02.22