「本当にすみません!」

どうやらポケモンセンターの機械トラブルで私の借りていた部屋が空室になっており、仕事で急遽こちらにきたダイゴさんが私の部屋を予約したらしい。そんな馬鹿なことがあるのかと聞きたいが、そんな馬鹿なことがあった。どうしよう、まさかほぼ初対面のダイゴさんと同じ部屋は無理だ。というか普通の人間だったら誰でも無理だと思う。

「困ったな‥もうここしか空いてなかったし‥」

なにそのアピールやめて。無理だよそれは無理。部屋まで謝りにきてくれたジョーイさんを見ながら小首を傾げているダイゴさんは、ちらりちらりと私に視線をやったり、そらしたり。

「あ、じゃあ私今日だけ野宿してきますね。ウィンディ連れて行くのでお構いなく」
「まさか女の子を野宿だなんて!」
「あ、じゃあダイゴさんが野宿ですか?」
「‥‥」

なんだその無言。嫌なんかい。ついツッコミが口を出そうになったのを抑えて、ウィンディを手招きした。君がいれば野宿も怖くないし寒くない。ジュゴン達がえー‥というような不貞腐れた顔をしているが、ボールの中より外の方が好きなのだ。この子達は。

「僕は床で寝るから」

えっ、それは1部屋に2人で過ごすってことですよね?それは流石にできない。せめて1年程の友達付き合いさえあればいいとは思いますけれども。それはそうと、まずは腕を掴んだ手を離してほしい。

「大丈夫です、大丈夫です。あ、でもジャローダ達にはちょっかい出さないでくださいね。じゃ、行こっかウィンディ」

ディ、と一声鳴いて歩き出したウィンディの後ろを歩く。そっと手を払いのけると、呆然とするダイゴさんと、そんなダイゴさんを睨みつけているジャローダ達を置いて部屋を出た。なんだよ、実はミクリさんくらい空気読めないのかよ。類は友を呼ぶだった。なんてことだ。

「ジャロッ!!」
「ご、ごめんっ‥追い出すつもりは毛頭なかったんだけどね‥!」








「ねーウィンディー」
「ディ?」
「休暇終わるまでにプリンセスキー3つ、なんとかなるかなあ」
「ディ!」
「あわよくばカロスクイーンまで」
「ディー!!」

おお、なんかやる気満々だな。嬉しいことだ。でも夜に遠吠えはやめてくれ。芝生に腰を下ろして、もふもふの暖かいウィンディの体に埋まる。ヤバイ‥‥ヤバイ布団だぞこれは。布団より暖かいんじゃないだろうか。もっと埋まりたくて顔をぐいぐいとすりつけてみれば、戯れてると思われたのか肉球を顔にふにふにとしてくる。気持ちいい。

「私も頑張るよー。一緒に頑張ろうねー」

貴重品をポケットに隠して、そういえばとポケギアを開く。あれ、知らない人からメール。ボタンを押してみれば、"ダイゴ"の文字。

ーーーーー

差出人 : dignmail@pkga
ダイゴです。ナマエちゃん、ごめんね。
僕は全然構わないんだけど‥‥というか、出来れば早く戻ってきてほしいんだ。ナマエちゃんのポケモン達がかなりご立腹で‥本当、お願いします。

ーーーーー

ご立腹。その文字を見て、まさかポケモンセンターのとある一部屋がバトルフィールドになっているんじゃないかと背筋が凍った。いや流石にそれはないだろうけど。ウィンディへ顔を向けると、仲間達のそんな姿が頭に浮かぶのかなんとも言えないような表情を浮かべている。

「‥ってもなあ‥私、ダイゴさんを追い出す勇気は流石にないんだよなあ‥」

だからと言って同じ部屋で寝れるような神経もないしなあ。そううんうんと唸っていると、いつの間にかウィンディは夢の中へと旅立っていた。

2017.01.12