「さあミクリ、今日の所は帰ろう。ルネジムのトレーナー達が待っているよ」
「ええっ!折角ナマエと再会したのにダイゴはそれでも僕達を引き離す気か?!」
「どうぞ引き離して下さい」
「そんな!ナマエ!」

そんな!じゃないし。ミクリさんの頭の上に、漫画みたいな"ガーン!"という文字が見える気がする。対してダイゴさんはエアームドの背中にミクリさんを乗せると、何かをエアームドに伝えた後、ダイゴさんを残して涼しげに飛んで行ってしまった。ミクリさんのこと扱い慣れすぎ‥。

「‥って、いいんですか?エアームド‥」
「ああ、ヒヨクシティまでお願いしただけだから、すぐ戻ってくるよ。ヒヨクシティには知り合いがいるから、連絡だけいれてミクリには強制的にルネへ帰ってもらう。全く‥」

そう言うと、ダイゴさんはちらりと私を見た。‥な、なんだろう。何かを言いたげな瞳に、思わず後ずさる。後ずさった拍子に、後ろにいたジュゴンとジャローダにぶつかった。ごめん。

「な、なんですか‥」
「いや、僕も君に興味があるなと思っただけだよ。パフォーマーと言う割には中々良い腕をお持ちのようだからね」
「それは‥多分、仲の良い子が強いから、鍛えられたんじゃないかと‥」
「そうか。是非バトルを申し込みたい所だけど残念ながら僕もすぐにも戻らなくてはいけなくてね。よければ番号を交換しないかい?」
「ええっ‥」

反射的に嫌な声が出た。別にダイゴさんが嫌だからと言う訳ではなく、この反射はミクリさんからによるものなのでそこは勘違いしないでいただきたい。私の嫌そうな声を聞いたダイゴさんが、眉尻を下げながら「僕はミクリのようにしつこくはないから安心していいよ」と苦笑いした。うーん。なんというか、罪悪感。

「きゅるる」
「え、ちょっと何、ぐいぐいしないでよジュゴン」

そんな私を見兼ねて(?)、ポケギアを持っている私の手を鼻を使って突然ぐいぐいとダイゴさんの方へ押し出したのはジュゴンだった。早く教えてあげなさいよ、という少し急かされているような雰囲気である。何故。そう考えているとジュゴンのお腹が鳴った。‥成る程貴女の行動を理解したよジュゴン。なんて邪な理由だ‥さすが食いしん坊。

「あの、じゃあこれ番号です。‥あ、私が登録した方がいいですか?」
「いいのかい?」
「まあ害はなさそうというか‥なんというか‥」
「害って‥‥酷いな」
「いや、その‥‥‥すみません」
「冗談だよ。じゃあ遠慮なく登録させてもらうね。僕もすぐメールを送るから、登録しておいてくれると嬉しいな」
「分かりました。あの、あと‥」

ミクリさんのことなんですけど。‥そう口を開こうとしたが、彼は全部分かっているからというようにへらりと笑った。

「ミクリのことは任せて。目は光らせておくよ。とは言え行動を共にしている訳じゃないけどね」
「‥助かります」
「ではまた、ナマエちゃん」

ジュゴンとジャローダにも丁寧に挨拶を終えたダイゴさんは、これまた丁寧にお辞儀をしてくれたエアームドの背中に乗って大空へと飛び立った。類は友を呼ぶ。まさにあの2人には当てはまることのない言葉であったことは間違いない。

「ジャロ?」
「いや、なんでもないよ。それでジュゴンはお腹が空いたんだよね?」
「きゅるる!」
「ぶふっ‥素直でよろしい」

素直だなあ。嬉しそうに擦り寄ってきたジュゴンの反応に思わず笑った。お昼時だし、ちょっと早いけどご飯にしようか。そう言ってポケギアの時計を見ようとした瞬間、ブルブルと手の中でポケギアが震えた。メールか。ダイゴさんかな。

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差出人 : ミクリさん

今日は残念だったけど、次こそはよろしく頼むよ!ダイゴが悪かったね!じゃあまた!
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んん、何も言うまい。








その日の夜、ポケモン達と夕ご飯を済ませた後のことだった。

ダイゴさんからメール来ない。まあいいんだけど。と、ポケギアを机の上に置いて巨体のウィンディと戯れていた時、またバイブ音がしたのだ。まさかまたミクリさんでは‥と、メールを見ることも億劫。今日一日のメール内容を聞いたらビビるよ。ミクリさん10件(返信してない)、ポケモンショップのセールご案内メール1件。‥ビビりすぎて笑った。そんなこんなでお風呂に入って髪の毛を乾かしていると、泊まっている部屋のインターホンが鳴ったのだ。誰?というより、どうして?という疑問の方が大きかった。カミツレのエモンガだったら前みたいに窓に衝突してくるだろうし、カミツレな訳もない。彼女は売れっ子だから、こんな所まで来たら大変なことになる。セレナ?いやそれはない。というかなんでピンポイントに私の居場所が分かるというのか。

「‥‥‥」
「‥‥‥‥あれ?」

かくして疑問を残したまま扉に手をかける。紛れもなく彼。驚愕、と言わんばかりに目を丸くした、ダイゴさんが立っていた。

2016.09.19