「悪かったね、ミクリが」
「何を言うダイゴ。合意の上だよ」
「誰も合意してませんけど」

ふざけんなよ変態め。‥と、頭の中で暴言を吐きながら、じっと彼 -- ダイゴと呼ばれた人物のメガストーンを食い入るように見つめた。絆の産物、とでも言えるそれは、エリートトレーナーでも、ジムリーダーでもそう簡単に使いこなせるようなものではない。トライポカロンでも、私はメガストーンを持ってる人にはまだお目にかかったことがなかったのだ。いやそもそも私はトライポカロンに毎回出場していた訳じゃないから、出ていない時のことは知らないけど。

「‥えっと」
「僕はダイゴ。ツワブキダイゴだよ。よろしくね」
「ナマエ、です‥どうも」
「ダイゴ、この子だよ。この間言っていた子!」
「そうか。随分なストーカー気質になってしまったねミクリ。残念だよ」

ダイゴさんが顔を顰めている辺り、ミクリさんのこの調子は元来のものではないらしい。それはそれで凄く厄介だし、ストーカー気質なんて犯罪級じゃん。コンテストマスターのくせに。

‥それにしても、とても綺麗な翼を持つエアームドを連れているものだなと感心する。手入れが行き届いてるっていうか、そもそもどんな手入れの仕方したらこうなるんだっていうくらいピカピカだ。目も爛々として、自信に満ち溢れている。この間のミクリさんのミロカロスと同じくらいの美しさは持っているんじゃないか‥と思う。いや素晴らしい。

「エア?」
「あ、ごめん。つい素晴らしい輝きを放ってたから魅入っちゃった」
「エア!」
「受け答えも完璧だな〜。トレーナーの腕がよくわかるよ〜」
「‥僕のエアームドと会話ができるのかい?」
「できるわけないじゃないですか。なんとなくですよ、なんとなく」

驚くように目を丸くしたダイゴさんの顔は、私の受け答えで頬を緩ませた。成る程、今更だけどイケメンだな。良い主人を持ったねエアームド。なでなでしてあげると、固くて、滑らかで、冷たい。つい触りすぎてしまいそうだ。そんな私をじっと見つめていたらしいダイゴさんが少し笑った。

「エアームドも嬉しそうだ。随分慣れているね」
「色んな子達見てきましたからね。これでもパフォーマーですし」
「へえ。パフォーマーさんがメガストーン持ってるのも中々珍しいね」
「ブエッ」
「ナマエがメガストーンを?」

変な声出たし。っていうかなんでメガストーン持っていることを知ってるんだ。苦笑いしながら首を傾げていると、腰につけている私の小さなポーチを指さした。‥‥おっと。これはいけない。ポーチにぶらさがっている懐中時計の蓋が開いてメガストーンが顔を覗かせているではないか。静かに蓋を閉めると、何もなかったかのように繕ってみた。その反応に対して、今度はダイゴさんが首を傾げている。

「どうして隠すんだい?」
「いやあ‥‥メガストーンって持ってるだけで色んなトレーナーに目を付けられるじゃないですか。そのせいで事あるごとにバトルを挑まれるから嫌なんですよ。ね、ジュゴン、ジャローダ」

そんな私の言葉に素直に頷く2匹は、人間みたいな小さい溜息を零す。昔は私もメガリングを買って、なんとなく見えるようにつけていた。ところがどっこい興味津々の新米トレーナーから腕に自信のあるエリートトレーナーまで、仕事の日も休日の日も毎日毎日色んなトレーナーにバトルの声をかけ続けられたのだ。さすがに鬱陶しくなって、懐中時計の中に隠した、ということである。一応バトルでも負けたくない性分なので、切り札、というところだ。

「成る程。確かにメガストーンを持ってる人はそういないからね」
「知らなかったよ。メガストーンを持ってるなんてさすが僕が認めただけあるね。改めてバトルを申し込みたい!」
「そう、こういう人がいるから嫌なんですよ」

目がギラギラし出したミクリさんが怖い。っていうか、早く帰ってくれないかな。私は自分のことで忙しいんだよ。ねえジュゴン、ジャローダ。‥そう思って2匹の頭を撫でようとしたら、既に撫でられていて、ついでにとても嬉しそうに顔を緩めていた。なんてことだ。

「可愛いね、2匹とも。それにとても賢いようだ。なんとなくだけど目で分かるよ」

当たり前だ。誰が親だと思っているんですか。そんなダイゴさんの至極優しい顔が、私の瞳にしっかり映っていた。

2016.07.14