ヤコ!ヤコ!と、カロス地方に生息するヤヤコマが鳴く声で目が覚める。いやしかしまだ眠い。昨日はあれからセレナ達と夕飯を共にして、帰ったら疲れ切ったポケモン達のケア。はて私のケアは誰がしてくれるのか?とは思ったが、手持ち達が大変癒してくれたのでよしとしよう。

寝泊まりしていたクノエシティのポケモンセンターは私の故郷のポケモンセンターよりもハイテクで、かつとても綺麗だ。それは場所による違いなのか、最近ポケモンセンターのレベルが上がっているのかは謎だけど、それはそれはめちゃくちゃ快適。まるでホテル(いやある意味ホテルなんだけど)。

「お腹減ったなあ」
「ディ!」
「わぶ!なに、もう起きたの?さすが早いね‥」

ベッドの下でぬくぬく寝ていたはずのウィンディが、もふっと私にダイブした。ぬくい。朝にめっぽう強いウィンディは、こうやっていつも私の朝の起床時に大きな尻尾をふりながらタックルをかましてくるのだ。たまに本気なのが傷。

「ディ、ディ!」
「はいはい‥あとでブラッシングしてあげるから。落ち着け落ち着け」

どうやら物凄くご機嫌らしい。求愛半端ないんですけど。何か良い夢でも見たのかな。くっそこのもふもふは罪‥可愛いんだから相変わらず!と頭を撫でていると、外から見覚えのあるポケモンが窓に突撃した。

「‥なんでここにいるって知ってんの?怖い」

この地方にはおおよそ生息していない、ピカチュウによく似たポケモンが窓に体当たりをしている。割れたらどうすんの、私が弁償するの?そして貴方のトレーナーは今どこにいるの?ちなみにここは、12階である。

「エモッ!エモモッ!!」
「分かった、開ける開ける、分かったから体当たりをやめてエモンガ」

手入れのよく行き届いた飛膜をいっぱいに広げるエモンガは、何を隠そうライモンシティのジムリーダーであるカミツレのポケモンだ。私と彼女は仕事仲間であり、旧友である。彼女がジムリーダー兼モデル、私が彼女のスタイリスト。キラキラ輝く彼女にスタイリストが必要なのかと思う時もあるが、ありがたいことに彼女は私が必要だと、良き友人であり素晴らしいスタイリストであると太鼓判を押してくれているのだ。

とはいえ、今私は一か月の休暇中である。カミツレと仲が良かったからかよくバトルをしていたのもあって私の手持ちのポケモン達はたくましく成長しているが、私自身が忙しいのは否めない。夢であるカロスクイーンの称号を手に入れたくてカロスに移住してみても、イッシュでの仕事が多忙すぎて大会にも出られる余裕がないのだ。だから思い切って長期休暇を申請し、大会に挑戦しようと思っているのに。何故カミツレのエモンガがここに。

「私休暇中なんだけどなー。エモンガ」
「エモエモ」

そんなの知ってるよ、とばかりに首を縦に振ったエモンガは、窓から入ってくるとふかふかのベッドへとちょこんと腰かけ、飛膜の内側からごそごそと小さいメモ用紙を取り出したではないか。飛膜はポケットではない、断じて。そしてそのメモ用紙をベッドに置くなり、きょとんとしているウィンディへと飛んでいった。

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休暇中にごめんね、ナマエ。カミツレです。
実は今度ホウエン地方のカナズミシティという所でポケモンコーディネーターとポケモンとで大きなファッションショーが開かれるんだけど、スズリにスタイリストとしてホウエンに行ってほしいの。
ちなみに休暇明けすぐだから休暇終わったら直接カナズミシティに移動してください。あと2人別のスタイリストも予定してるし、まあナマエならやれるだろうしお任せしちゃうから。あ、私のことは気にしないでいいからショーが終わったら連絡よろしくー! カミツレ
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「休暇中に休暇明けすぐの仕事のことなんて聞きたくなかった‥」

それにしても急だな。メモ用紙を畳んで溜息を吐くと、ウィンディとエモンガがじゃれあうのを見ながら立ち上がった。とりあえず朝ご飯でも作りますかと備え付けの小さいキッチンに向かう途中、ガンガンクーラーの効いたガラス張りの部屋から、寝ぼけ目のジュゴンが私の顔をじっと見ていた。

「ジュゴン、おはよ」
「きゅるる」

ガラスにべったりと顔を引っ付けて鼻をくんくんさせている所を見ると、恐らく私が動き出したから飯だ飯だと思っているんだろう。手持ちで一番の食いしん坊、だがトライポカロンでは素晴らしい力を発揮してくれる。私のポケモン達は何故かポケモンフーズよりも人間食を好む傾向が強い。ウィンディとジュゴンももちろん、さっきまでベランダ近くで寝ていたはずのジャローダは今冷蔵庫にへばりついて野菜を催促しているし、まだ寝ているレントラーはりんご好き、ベランダに出て色んな飛行ポケモンをじっと見ているピジョットはパンとチーズが大好物。そして一番長い付き合いのあるエーフィはベーコンの入ったポテトサラダが大好きだ。お前は人間か。

「地味に食費がかさむんだよねえ」
「きゅるる!」
「いやいいんだよ?ポケモンフーズも好き嫌いあるし、私としては人間の食事を食べさせていいのかわからんところでもあるけど、まあ君達すごく元気だしね。体に良いってことでしょ?」
「ロー!!」
「私の料理の腕がいいっていいたいの?ありがと。でもジャローダの生野菜は料理関係ないよ」
「ジャロ、ジャロ」

ぶんぶんと尻尾をふるジャローダが、果たして料理の腕がいいわけじゃないといいたいのか、そんなことないよっていいたいのかはわかりにくいが、主としての勘(願い)は後者だ。

さあできた。本日の朝ご飯を用意して、長期休暇ならではの皆でご飯タイムだ。ポケモンフーズ用のトレイに人間用の食べ物が入っている少し不思議な光景。いただきますをしてフレンチトーストに手を伸ばした瞬間、机の上のポケギアが震えた。

「ん?」
「ピジョ?」
「あ、ごめんねメールメール。なんでもないよ」

音に敏感にな反応を示したピジョットは、首を傾げるもただポケギアが震えただけだったことに気を取り直し、薄焼き卵が入ったサンドイッチをつつき始めた。カミツレかな?そういえば、と周りを見渡すと、エモンガは一番優しいレントラーの朝ご飯を一緒につついている。

「‥‥ゲッ」

なんとも微笑ましい光景を目にした後、メールの内容を確認しようとポケギアに視線を移せば、画面の真ん中には、

新着 : ミクリさん

と映し出されていた。

2016.04.03