「で!凄いんだよ彼女は!!ダイゴ、君ちゃんと僕の話を聞いてるのか!?」
「聞いてるよ。そんなにすごいけど結局君が勝ったんだろう。よかったじゃないか」
「あんな素晴らしいパフォーマーがまだいるとは思っていなくてつい!本気になってしまったんだよ!」
「いつも本気じゃなかったのか、ミクリ」
「そうは言ってないじゃないか!」
「言ってるだろう」

この至福の時間にこれ以上ないハイテンションで僕の家に転がり込んできたと思ったらこれだ。石を磨く貴重な時間を邪魔しにくるなんて。うっかり手を滑らせて床に落ちた拍子に消えない傷でもついたらどうしてくれるんだ。ミクリのマシンガントークを右から左に流しつつ、そっとケースの中に光の石を収めた。

ミクリはつい先程まで、カロス地方特有のトライポカロン、とか言うポケモンのコンテストにゲストとして出演しに行っていたそうだ。そのトライポカロンで素晴らしいパフォーマーに出会ったという。今回、ミクリが出場するということで、優勝した人物とゲストのミクリがコンテストバトルをすることになり、‥‥まあ結果、ミクリが勝ったにせよこの調子だ。優勝したその彼女にも色々しつこかったんだろうなと溜息しかでない。

「あまりにも素晴らしかったから是非ホウエン地方にもきてくれないか?って頼んだんだ!いやあ楽しみでたまらないね!」
「本当に来るかわかったものじゃないな。お疲れ様」

部屋の隅に隠れている、産まれたてのココドラがビクビクと体を震わせている。ミクリのマシンガントークが怖いのだろう。大丈夫、僕も怖いよ。立ち上がってミクリから離れると、ココドラを抱き上げて台所へ向かう。安心したのか、はたまた籠の中のリンゴに気付いたのか、突然ぴたりと止まって僕の目をじっと見ている。‥後者か。

「彼女と連絡先を交換したんだ!もうメールも20通は送っているよ!」

とんでもない情報をさらっと言いのけるミクリに、僕は開いた口が塞がらなかった。そこまでするか。というか返信があるのか?その返事に対してはNO。腕の中では僕からリンゴへと視線を変えたココドラが「ココッ」と可愛くおねだりしている。ごめんよココドラ。今僕の口からは一言だけしか出てこないんだ。

「‥ただのストーカーじゃないか」








「ナマエさん、お久しぶりです!」
「セレナ!」

カロス地方。クノエシティの冷めやらぬ熱気の中、年下だけど大先輩のセレナに呼び止められた。サトシとピカチュウ、シトロン、ユリーカちゃんもいる。どうやらみんな見に来ていたらしい。セレナといえば、トライポカロンのマスタークラスに出場して以来ずっと忙しそうで今日も出場はしていなかった。そして代わりにというか、ホウエン地方出身のコンテストマスター・ミクリさん(?)っていう人がゲストとして出演していたけど。

「すごかったです、今日のパフォーマンス!コンテストバトルの最後のバークアウト、つい魅入っちゃいました!」
「まあ最後は負けちゃったけど最近またみんな強くなったからね。次のトライポカロン楽しみにしてて」
「ナマエさんこの間テレビ出てるの見ましたよ!ユリーカが前の大会のダイジェストの放映やってたの見つけて!やっぱすっげーかっこよかったです!!そういえばその時のなんですけど!」
「あ、あう‥」

そういうサトシこそこの間の大会凄かったよ、と言い始める前に怒涛の質問コーナー。元気溢れる若者にこちらが圧倒される‥。

「今回のマスタークラスは挑戦するんですか?!」
「もちろんそのつもりだよ。なんだかんだマスタークラス挑戦できなかったしね。今度こそ皆と同じ場所に立ちに行く気でいるから」
「ほんと!?ユリーカ楽しみ〜!!」
「ナマエさん、お互い頑張りましょうね!」
「もちろん!‥って、あ〜〜‥」
「?どうしたんですか?」
「あはは‥大丈夫、なんでもない‥」

楽しいお喋りの最中、ポケットの中でブルブルと震えたポケギア。今日、というか約6時間前に例のミクリさんと強制的に連絡先を交換してしまったが最後だった。鬼メールが止まらないのである。どうやら私は酷く気に入られてしまったらしいということはよく分かった。だからこそ辛い。私はちょっと、いやだいぶ苦手なタイプだ。確かに、最後のミクリさんとのバトルでの尊敬にも値する、素晴らしいポケモン達の洗練された動きや技に度肝を食らったのは間違いない。本当に全てが美しかった。‥が、それは一人のポケモンパフォーマーとしての話である。

「それにしても今日のミクリさんの気合いは凄かったなー!ナマエさんとバトルしてる時、すっげー楽しそうだったぜ!」
「え?サトシ、ミクリさんと知り合いなの?」
「はい!オレホウエン地方でも旅をしてたことがあって、そこで初めて会ったんですよ。見た目はクールだけど、実は物凄いアツい人で!」
「分かる気がする‥」

サトシの言葉に頷き、そっとポケギアのボタンを押すと、ちらっとメールを見た。

ーーーーー
差出人 : ミクリさん
またすぐカロスに行くつもりだから、今度はホウエン地方に連れて行ってあげるよ!
ーーーーー

やべえこの人まじでやりかねない。
ぞっとした拍子にぷちりとポケギアの電源を落とすと、腰につけた相棒のモンスターボールが私の気持ちを察したように揺れた。

2016.04.01