微温湯

「ヒナタ、任務だぜ。…ってアレ?コトメは一緒じゃねーの?」
「あ…さっきイルカ先生に呼ばれたからもう行っちゃったよ」
「ふーん…で、アイツは一体どーしたってーの?」
「う、うーん…」
「シカマルっつったら急に焦りはじめて終いにはキレるしよー…まあ、俺も言い方は悪かったけどあれはさすがにキレすぎだろ!」
「キバ君、元気付けるにしてもちょっと言い過ぎだった、ような…」
「はーん?ヒナタはコトメの味方っつーことだな?ハイハイ」
「そ、そんなこと言ってないよ…!」
「アンッ!ワンッ!」
「あー、分かった、分かったから赤丸……いーっつーの、気にしてねーし。それより今日は大名様の大事な大事な昆虫探しだってよ」

朝っぱらからコトメと喧嘩という謎のやり取りを終えて、ちょっと言い過ぎたかもしれねーなんて反省していた俺と、コトメを追いかけていったヒナタに舞い込んできた任務。もうすぐ上忍になるかもしれねー俺になんつー任務押し付けてきやがるんだ。見ろよこの紙、"大名の大事なスケルバタフライ(名前はスー君)を捕獲せよ"って書いてあるんだぜ?いや待て待て、こんな任務新米下忍君にでも任せりゃいいだろうが。…とは思ったが、スケルバタフライっつーのは文字通り羽が透けて見つけにくい蝶々、しかも厄介なことに頭もいいと聞く。そんなもん飼うんじゃねーよと悪態をつきつつ、渋々ヒナタを呼びに行っていたわけだ。ついでにコトメに謝るかなんて思っていた俺の前にはヒナタしかいないし、アイツ絶対根に持つぞ。マジ厄介。

「スケル、バタフライ?」
「ヒナタの白眼と俺の鼻があればすぐ済むって考えたんだろ。大名がいないいないっつって喚いてるらしーし」
「シノ君、また仲間外れだね…」
「しょーがねーだろ。アイツはSランク任務についてんだし逆に任せてもらえないこっちが落ち込みてえくらいだよ。とにかく行くぞ」
「…あ、今日任務2つあるんだね」
「はあ?ンなことどこに書いてあんだ?」
「ほ、ほら、小さく"被害の残る住宅地の手伝いも頼む"って…」
「…」

……と、ここまでが前半の任務内容だったわけで、後半の任務に行く途中で倒れたシカマルをヒナタが見つけたわけだ。にしても‥あり得ねえ、シカマルがあんな場所で倒れてるなんて…。

慌ててシカマルに駆け寄り無事を確かめたものの、見た目の外傷は特に見当たらなかったが一向に目を覚ます気配もなかった。あのシカマルが、だ。めんどくせーが代名詞だけど隙はない男であるのは間違いない。俺だってヒナタだって、そんなことはよく知ってる。取り敢えず俺とヒナタは、いくら身体を揺らしても目を開けないシカマルに酷く焦りを感じて木の葉病院へとシカマルを連れてきたわけだ。

「特に問題なさそうだねえ。大丈夫大丈夫〜、すっ転んで軽く頭でも打ったんじゃないのお?」
「外傷はねーって今さっき言ってただろ。セナさんそりゃ適当すぎるんじゃねーの?」
「だってえ、原因が本当に分かんないんだもーん。ま、目が覚めてから直接本人にどうもないのか聞いたらあ?」
「本当に目ぇ覚めんの?ピクリとも動かねーけど…」
「心臓は動いてますからすぐ起きると思いますう〜」

ッはー!!むっかつく言い方すんな!!あーくっそ俺この人すっげー苦手なんだよな…。隣でわふわふと撫でられている赤丸を見ながら、セナさんの小馬鹿にしているような声を聞いてムカッと額に怒りマークを薄く浮かべていると、ふいにヒナタが声をあげた。

「だ、大丈夫…?!」
「…ヒナタ…?キバ、セナさん…何やってるんスか…?」
「シカマル!」
「ほおーら、言ったでしょお?」

ぼんやりと俺達の顔を順番に見ながら眉間に皺を寄せるシカマルにほっと息を吐くと、座っていた椅子の背凭れへもたれかかった。

2014.05.15

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